38.連絡先争奪戦の時間です♡

「えっ……あ、とった……!」


 絶対負ける……と思っていたゲームは、開始早々見つけてしまった宝探しの『宝』である透明なビー玉を発見した事により、一抹の希望を見出してしまった。


「ぷは……しんちゃん早ぁ……っ!」

「えーっ、早過ぎない?……ズルしてないよね、麻結ちゃん先生っ!」

「ふふっ、してませんでしたよ」


 ズルを疑われるけれど……させてくれるのならこっちから頼み込みたいくらいだ。


 上城かみしろが水泳に強かったのも知ってたみたいだったし、本当に俺に勝たせるつもりでやった訳じゃなかったのか……。


 ちょっと不貞腐れそうになりながらも、ここまで来たからには本気で頑張ろうと意気込むけれど……次は五十メートル泳という、いかにも上城特化しすぎている競技であって……。


「よーい……スタート」

「!」


 宣言通りマジのガチに挑んで来た上城は、麻結さんの合図と同時に凡人にはまるで真似出来ないスタートダッシュを決め込み、そこで着いた差も勿論埋められる訳無く……。


「ぷはぁっ! はぁ……っ! ボクが負ける訳無いね、圧倒的一位〜っ!」


 そんな声を水中から聞きながら、多分十秒か……いや、それ以上後になってから俺がやっとゴールしたと思えば、名高なだかの方はもうとっくに諦めたのか限界だったのかで、真ん中位のところでぷかぷかと浮かんでいた。


 ……あとは素潜り、か。


 そんな風に考えていたら、麻結さんのいる方のプールサイドに上がった上城がまた自慢げに腕を組んだ。


「ふっ……この勝負、ボクが貰ったも同然だね」

「あら、自信満々ですか?」

「当たり前!……ボクが息継ぎ無しでどれだけ泳げるかって事。試すまでも無いよね」


 調子をこく上城だったけど……そうまで言われると負ける気しかしない。


「……」


 名高の方も黙り込んじゃったから……まぁ戦う前から勝負あったんだとしても、やってみないに越したことはないし……。


「では、準備は良いですかー?」


 自信は一切無かったけれど、俺達はプールの端の方に集められて、丸くなって準備する。


 ……上城がむせたりする可能性もある訳だし、まだ分からないんだから……本気で挑むしかない。


「よーい……スタート」


 合図と同時に、俺は息をいっぱい吸い込んで水の中に入ると……


「!?」


 ……そこでは、謎の光景が広がっていた。


「ぷはっ……! な、なーっち……?! なにするの……っ!」


 えー……出来れば説明したく無かったのだけれど……しょうがないので説明しよう。


 俺も良く分かっていないのだけれど、見た通り説明するのなら……名高がそのご自慢の豊満なそれに上城の顔をうずめ、それに動揺した上城が水上に顔を出した、という訳だけれど……。


「麻結ちゃん先生っ! これ……」

「あら、そういえば反則を決めていませんでしたね。……しょうがないので、ルール無用で行きましょうか」

「そんなぁ……!」


 水上で嘆く上城の声を横目に、俺は確実に嫌な予感を覚えていた。


 開けたくなかったけど……近づく気配に開けざるを得なかった目をゆっくり開くと、


「っ……?!」


 ……この先は正直、語りたくもない。


「えー、宝探しでは下川くん、五十メートル泳では上城さん、素潜りは名高さんがそれぞれ一番になりましたね」


 プールサイドに集められたゲッソリした俺と上城、一人やり切った表情の名高に向かって、相変わらずいつも通りの様子で麻結さんは言う。


 頑張ったのにこんな結末か……と、そろそろ砂になりそうな俺が次に聞いたのは、


「では……引き分けなので、写真は皆さんに送りますね」


 ……紛う事無き、女神の声だった。



****



「……はい、これで全員ですね」


 すっかりプールから上がった俺達はそれぞれ連絡先をゲットし、帰路についていた。


「あははっ、たしかに面白い」

「ふふっ」


 二人の反応を見て、俺も早く見てみようと開くと、二件のメッセージが届いていた。


「? あっ……!」


 画像の方は何故か読み込めなくなっていたけど、その下にあったメッセージに、俺の今日の疲れは吹っ飛んでしまった。


『今度の花火大会、一緒にどうかな?』

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