7.初めての板挟み♡
「し、しんちゃんは……わたしと購買に行くんです……っ!」
「……何それ、ボクの作ったお弁当が食べられないって事?」
「……」
二人に板挟みにされた俺は、こんな謎の状況にただ一つ強く思いながら、その間で立ち尽くす事しか出来なかった。
……どうしてこうなった。
****
「あっ……」
それは、俺の一つの失態と、その気付きから始まった。
俺は朝にめっぽう弱いので、前の夜に弟と自分の分の弁当を作っておき冷蔵庫に入れ、それを朝荷物に入れて持って行き、昼に食べるってサイクルがあるのだけれど……。
……無い。
いくらそこまで大きくもないカバンを漁っても無いという事は、確実に俺の弁当は、今も冷蔵庫の中で眠っているのだろう。
でも……どうした事か。
購買に行っても良いんだけれど……学生に優しい値段設定とはいえさすがに自炊より安上がりな事も無いし。
まぁ、一食抜いても変わりないか……。
自分で言うのも難だが、食べ盛りの一男子高校生が一食抜くってのはかなりの苦行にはなるが……背に腹はかえられないし。
何より今こんな所で予定外の出費をすれば、また真吾に我慢をさせてしまう事になってしまっては敵わない。
……何だか貧乏臭く思われそうだけど、購買の空気だけでも味わってくるか。
「しんちゃん、どこ行くの?」
そう考えに至った俺が立ち上がると、隣で教科書を机にしまっていた
「あぁ、ちょっと購買の方に……」
「購買?……わたしも一緒に行っていい?」
「えっ……あ、あぁ……」
そうか。
名高が昼休み居なくなるのは何となく知っていたが、購買組だったのか。
でも……困ったな。
一緒に行って俺だけ何も頼まずに「空気食ってるから心配なく!」なんてする訳にも行かないし……元からそんなキャラならともかく、俺がやれば心底心配されて分け与えられる様な展開になりかねない。
いくら金が惜しいとはいえ、クラスメイトの女子に奢って貰って平気で居られる程図太い精神はしていない。
「でも珍しいね。お弁当じゃないの?」
「あぁ……ちょっと忘れてな」
「えっ?」
心做しかいつもより機嫌のいい名高に聞かれて答えると、偶然教室に戻って来ていた
「ごめん、朝気付かなくて……」
「いや……お前のせいじゃ無いし、俺が不注意なだけだったからさ」
「……でも、それなら言ってくれればいいのに……ボクのお弁当分けてあげるから、ちょっと来なさい!」
「えっ、ちょ……」
俺はそんな風に半ば強引に腕を引かれて、上城の席の方へと移動していく。
あぁ……そうそう。
上城はいわゆるボクっ娘だ。
「ま、待ってください……っ!」
それに反発する様に声を上げたのは、名高。
ちなみに名高は、俺以外の奴には何故か敬語で口下手だ。
「し、しんちゃんは……わたしと購買に行くんです……っ!」
「……何それ、ボクの作ったお弁当が食べられないって事?」
「……」
それでこうなったという訳だけれど……どうすれば良いんだ、俺は。
購買に行って俺だけ食べない訳にもいかないし、かといっていつも通り自分の適量を作って来て居るであろう上城のお弁当をつまんでしまうのも申し訳ないし。
「どうするの? しんちゃん」
「……しんちゃん?」
段々と空気がギスギスとして来て、早く決めなくちゃいけないのに……決めたら決めたでその後の関係に大きなヒビが入りそうな気がして俺が決められないでいると、
「それなら……いい案がありますよ」
「えっ、麻結ちゃん先生……?!」
背後から声がして振り返ってみれば、そこには麻結さんが居た。
「私、実は今日おにぎりを買ってきていたのに、急にパンの気分になってしまって、購買で今買ってきたんです」
麻結さんはそう言って、カバンからおにぎりを取り出して俺の方へ差し出す。
「勿体ないので、良かったらどうぞ。……代わりに下川くんには、ちょっとお手伝いをして欲しいのだけれど……大丈夫ですか?」
「は、はい……」
「良かった。……では私はこれで」
「えっ……あ、ありがとうございます……」
まるで嵐の様に去って行ってしまった麻結さんに、俺達三人はしばらく固まっていたものの、それぞれが何だか拍子抜けした様に俺の元を離れて行き、最後には俺と麻結さんの置いて行ったおにぎりだけが残った。
……やっぱり凄いな、麻結さんは。
俺はそう思いながら、おにぎりを器用に取り出して海苔を巻き、パリッと一口入れてみた。
……美味い
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