8.体育の時間♡
「
「ん……しきか」
俺がハブられているという事は誰の記憶にも新しい事だろうが、そんな中男女別の体育の時間になれば、数少ない男子を二組ずつに分けるに当たって、俺がその相手に選ばれる事は当然無い訳で……と、思っていた矢先だった。
「……組む?」
「……おう」
しきの事だから、優しさとかそういうのでは無いんだろうけど、正直こういう時のしきの存在はかなり重きにある。
そもそもの話麻結さんの件も、しきにはかなり助けられている訳だし。
あまり深入りして来ない所がしきのいい所ではあるけれど……こういう時に俺を相手にしてくれるって事は、他の奴よりかはいくらか居心地が良いと思ってくれていたら良いのだけれど。
だから今のしきとの関係は、ぶっちゃけ楽だ。
離れて行く程距離も近くは無いし。
「ぅわっ……」
「大丈夫か? 別に無理しなくても……」
「いや……平気……」
ただ、一つ問題があるとするならば、それは今の様な……体育の時間。
長身な方の俺と、クラスの男子で一番の低身長のしきとでは、こんな風に組んで体操したりする時にはいささか
さすがに片方に体重を掛ける系の体操をしき相手にやるのは躊躇われたが、しきはそれがそこそこコンプレックスなのか、頑なにちゃんとやろうとする。
「っ……!!」
「お、おい! しき!」
でも……そんな中で無理やり続行しようとすれば、当然事故は起こるべくして起こってしまう訳で。
****
「……ごめん」
「良いって。ケガそこだけか?」
「うん」
俺の体重を無理に支えようとして転倒したしきを、一人で出来る事も無いので保健室まで付き添って、保健室の先生が処置しているのを何となくで横から眺める。
「はい。……授業ももうすぐ終わるんだし、少し休んで行ったら?」
「えっ、あー……真次、どうする?」
「俺か?……まぁ、休んでこうぜ」
「ん。……じゃあ、そうします」
「りょーかい」
すると、そんな感じで意図せず先生公認で保健室で休めるという大義名分を手に入れる事に成功した。
別に授業が嫌って訳では無いけれど……一人でやる事も無いからこんな風に意味も無く着いてきた訳だし、初夏とはいえ暑いものは暑いし。
当たり外れの場所のある教室と比べて、一段とクーラーの効いた保健室は暑い日には天国の様だ。
「じゃあ私はちょっと外すよ。よろしくね」
「はい……どうも」
「ん」
そんなうちに、先生は忙しそうに保健室を出て行った。
「……」
そういえば……しきとも部屋に二人だけになる事なんて殆ど無かったな。
……そうだ。
前に一度だけ二人になった時、俺がつい口を滑らせて『麻結さん』なんて言ってしまったのをキッカケに、しきは俺と麻結さんの関係を知ったんだっけか。
しきは人付き合いは浅いけど洞察力は半端じゃない……それこそ麻結さんと並ぶくらい良いんじゃないかって感じるから、今でこそバレてしまって当たり前かとは思うけど。
「……しき」
「ん?」
そんな事を考えていると、ふと気になってしまって俺は声を掛ける。
……まぁ、特に話す事も無いし良いだろうって、軽い気持ちで。
「しきは……誰かを好きになる事はあると思う?」
遠回しに、誰かに深く関わる可能性はあるのか聞くつもりだったけれど……この後のしきの答えが一生忘れられないものになるなんて、今の俺にはどうしても考えられなかった。
「うーん……人をちゃんと好きになった事も無いし、分からないけど……もしそんな事があるんなら、僕はどうにかなってしまうかもね」
そう言い切ってから、しきは付け足す。
「……ま、そんな事無いと思うけど」
でも……そう言いつつもどこか含みのある言い方をしているのを、俺は確かに感じ取れていた。
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