9.お手伝い♡

「いやぁー、助かるな?!」

「……いきなりどうしたんだよ」

「ふふ、下川しもかわくんが居ると作業の進みが早いって事ですよ」


 中野なかのの突然の大声に俺がちょっと驚きつつもツッコミ返すと、麻結まゆさんはそんな風に言って笑う。


 最近の放課後は、麻結さんと屋上で二人きりでは無い代わりに、一緒に居られる時間が増えていた。


 ……良く考えれば、わざわざ屋上で話していると言ってもそれほど恋人らしい会話を交わしていた訳でも無かったので、中野が居てもそんなに都合が悪い訳じゃ無かったし。


「……でも、そろそろですね」

「うんうん。助かりました」

「予定よりだいぶ早く進んでるからねー」


 ただ、麻結さんは俺と二人きりの時しか敬語を崩してくれないから、それが少し恋しかったりもするけれど……そんな事言えば俺だって何となく麻結さんには敬語が抜けなくて、いつもこんな感じだった事を思い出す。


「これが終われば、委員会のお仕事は一段落しますね」

「あはは、図書委員ってこーゆーの無ければ大体暇だもんねー」


 そういえば、あれからしばらく麻結さんの周辺で何か問題になってる事……変わった事が無いか注意深く見ていたけれど、やっぱりそこまで変わった事は無かったし、あれ以来二人きりになっていないからってのもあるだろうけど、突拍子も無い話をしてくる事も無かった。


 ……まぁ、宮地みやじって言う明らかな害は居るんだけれど、あいつに関しては今悩み中だ。


 あいつの性格の悪さ……陰湿さはクラス中が知ってるし、麻結さんだって気色の悪いイジられ方をしてるんだから分かっているだろうが、やってる事が幼稚すぎて逆に無視するくらいしか対策のしようが無いからだ。


 あんなんでも、手を出された事は無いんだし……。


「そういえば……男子の図書委員は? 来た所なんて見た事が無いけど……」


 色々考えていた結果、何となく気になった事を聞いてみると、二人は「?」と言う様な顔でこっちを眺めてくる。


 俺も「?」と言う顔で見つめ返すと、中野の方が少しだけ早く気づいた様に笑い出した。


「そーゆー事ね! 確かに中学までは男女一人ずつだったけど……忘れたのー? うちの学校は女子が多いんだから、そういうのはなかったでしょ?」

「あぁー……そうだったっけ……」

「……ま、決めたのもだいぶ前だし下川は委員会入ってないし、分かんなくて当たり前かぁ」

「ふふ、そういう事なんですね」


 確かにこの学校で男女一名ずつなら男子は全員強制的に……いや、何なら掛け持ちする者が現れてもおかしくないから納得がいく。


 俺達の話でだいたいどんな勘違いをしていたのかを把握したらしき麻結さんも、いつもの優しい笑顔で笑っていた。


「……でも、懐かしいなー。アタシ実は、小学生の頃から図書委員だったんだよ?」

「あら、そうなんですね」

「そうそう。……あ、小学生と言えば、図書委員は宮地と一緒だったなー」

「宮地くん……ですか?」

「……!」


 宮地。

 あいつの話題が出るとは思わなかったから、つい身構えてしまう。


 でも、あいつが図書委員か……想像がつかないけれど、やっぱりそこでも問題を起こしていたんだろうか。


 手は出さない奴でも、本を破かないとは限らない訳だし……。


 ……なんて、そんな事を考えていた俺に中野が話したのは、予想だにしない思い出話だった。


「今じゃ考えられないと思うけど、宮地はあれでも昔は大人しくてねー? 本ばっかり読んでウジウジしてて、意外と可愛い奴だったんだよー」

「……えっ?」


 宮地が本の虫で内気で可愛い奴?


 いくら小学生の……昔の話とはいえ、到底信じられなかった。


「……」


 何かあったんだろうか、家庭の事情とか……。


 何だか重なる所を見つけてしまったらつい同情して許してしまいそうで、俺は慌ててその考えを取り払う様に首を振った。

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