俺の年上彼女が殺人鬼な可能性が日に日に上がっている

センセイ

俺の日常

1.下川くん♡

 曇天の日。

 コンディションは最悪だ。


 手足首にはしっかりと固定されてるし、視界も遮られていて、大声を出せばどうなるか分かったもんじゃない。


真次しんじくん♡」


 そんな中、俺を呼ぶ声だけが、狭い部屋中にこだました。





****









下川しもかわー」

「ん。……何だ、中野なかの


 放課後、帰りの挨拶が終わってリュックに荷物を詰めていると、背後から名前を呼ばれる。


 彼女は中野 由梨ゆり

 俺のクラスメイトで……まぁ、それ以上もそれ以下でも無い奴だ。

 ちょっとだけこうやって話す仲ではあるものの、所詮は知り合いと友達の間程度。


「下川、アタシが前貸した漫画は?」

「あー……悪ぃ、まだ読めてないから家に置いてきた」

「えぇー! 丁度今読みたかったのに……」

「……。だから悪いって……」

「あーハイハイ、分かってますよぉ。じゃーね! 早く読んで持ってきてよね!!」

「おー」


 ……ま、こんな風に漫画の趣味は合うので貸し借りはしているが、それくらいだ。


 学校以外で会う事も無ければ、必要以上に話したりする事も無い……言うなれば、気楽な関係って訳で。


「よっ……と」


 俺は荷物を持ち、辺りを見回す。


 今日は何も音沙汰が無かったし……もう帰っても良いんだろうか。


「……あ、真次」


 そう思って、俺がゆっくり教室を出ようとすると、そんな風に呼び止める影が現れた。


「ん……何だ? しき」


 こいつはしき……小森こもりしき。

 女ばかりの俺の周りで唯一の男と言って良いんじゃないかって程の存在であり、それほど仲良くは無いのに何故か何でも話せてしまう不思議な奴でもある。


 ……そもそも、どうして女ばかりかっていうと、前提としてここが元々女子校だった事が挙げられる。


 今でこそ共学とはいえ、その影響と生徒の自主性を大事にするとかいう校風もあってか、ここの女子制服はいわゆるキラキラ女子の中では群を抜いてらしい。


 だから、共学となってしばらく経つ今でも男女比は女子の方が圧倒的に多くなっている。


 そして……そんな状況のこの学校で、俺は数少ない男子の枠からあぶれた。


 ……それは何故か。

 単純な事……リーダー格である奴に、俺が逆らったからだ。


 後悔はしていないし……何なら、言い方は悪いがそのお陰で関係のある奴も居るし、まぁハブられてもそこそこ楽しくやっていけてるから特別問題は無かった。


 たまに恨めしそうに見てくるので、何か八つ当たりされないかだけ心配だけれど、まぁその時はその時だ。


 ……っと、話が逸れたな。

 まぁ俺がこんなんだから、男の友達なんぞ出来ないと思っていたが……意外とこいつ、しきとは仲良くやっている。


 こいつは少数派になってすっかりグループになっている男子の輪には属さず、かと言ってハブられている訳でも無いので俺ともクラスメイトの他の奴とも程々に接しつつ距離をとって暮らしている、一匹狼タイプってやつだ。


 そんな適度な距離感と安定感のある奴だからか、こいつだけには……唯一俺のを話してあった。


「……屋上で会おうだってさ」

「ん。……ありがとな」

「じゃ、僕はこれで」

「おー。気をつけろよー」


 こちらに軽く手を振り返しながら階段を降りていく影を見送って、俺の方も伝言通り屋上へ向かおうと歩みを進める。


「ん……開いてないな」


 まぁ、勿論閉まっている。

 都合のいい漫画やアニメなんかと違って、うちの高校は通常時の屋上の立ち入りは禁止されているからだ。


 ……ま、あくまでそれはルールでしかないが。


「えーっと、どこにしまったか……と。……お、あったあった」


 そんな風にカバンを漁り、俺が取りだしたのは……何の変哲もないスペアキー。


 そしてそれは、屋上の鍵穴にピッタリとハマってカチャリと音を鳴らしてその向こう側の景色を俺に見せてくれる。


「……本でも読んでるか」


 鍵が空いていなかった事で大体察しは着くが、向こう側には誰も居なかった。


 俺が誰に向ける訳でも無くそう呟いて、またカバンの中を漁っていると……


「お待たせー、下川くん」

「……麻結まゆさん」


 ……突然背後から聞こえた明るい声に、俺は声のトーンを少しばかり上げつつその声の主の名前を呼ぶ。


「ごめんね。こっちから呼び出すクセに、毎回遅れちゃって」

「いえ……良いんです」


 そう。

 しきの言っていたのは、この人……麻結さんからの伝言だ。


 この人がどんなに遅れて来ようと、忙しい中俺と会おうとしてくれるだけで嬉しい。


 だって……


「だって麻結さんは……俺の彼女ですから」

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