23.危うい二日目♡

「あっ、しんちゃんあくび?……夜更かししちゃったの?」

「ん……悪いな」

「? えへへー」


 結局、考えても考えても分からなくて……どこかを直そうとすると、どうしてもどこかがまた劣ってしまうって感じでぐるぐると解決しそうに無い思考を働かせていたら、いつの間にか朝になっていた。


 移動のバスで少しでも寝ようとしても、朝のバスの五月蝿さを舐めていた様で、一睡も出来ずに気づけば登山が始まっていた。


「しんちゃーん、早いよぉ……っ!」

「ん、あぁ……悪い」


 体力が出ないと思いきや、逆に何故かぐんぐんと進む足に任せていたら、いつの間にか名高なだかを置いてけぼりにしてしまっていたらしい。


 俺は少しくだって、膝に手をついて悲鳴を上げる名高の元まで戻る。


「わたし……っ、運動、にがてなのに……」

「……大丈夫か? 荷物くらいなら持てるけど……」

「えっ、ほ……ほんと?!……あっ、でも、しんちゃんだって荷物あるし……」

「遠慮しなくて良いから。ほら、渡してみ」

「……いいの?」

「おう」


 体育の授業……たまの男女合同の時でもいつも見学の所に居るから、きっと参加してないんだろう。


 それでも登山には参加しようと頑張ってるんだから、手伝える事は手伝いたかった。


「……し、しんちゃん!」

「ん?」

「ありがとう……助けてくれて……」

「おう」


 俺が名高のリュックを肩に掛けると、すっかり身軽になって歩ける様になった名高がそんな風にお礼を言った。


 やっぱり……頼られるって良いな。

 必要とされて期待に応えられる感じは、いつでも変わらず気分が良いし。


「えへへ……しんちゃん優しい……♡」


 名高の方も嬉しそうだったから、余計なお世話では無かったとひとまずホッとする。


 が……


「……やっと来た。小森は?」


 ……相変わらず、上城かみしろの態度は冷たいもののままだった。


「しきは……見てないな」

「わ、わたしも……です……」


 でも……実は、一つ気づいた事があった。


 俺の気のせいか、逃げ道として至った見当違いな考えかもしれないけど……上城は、俺だけに冷たくなった訳じゃない気がするんだ。


 仲良しな人に対してはいつも通りだったけれど、班長で集まっている時特定の人に対しては何だか冷たかったり、その後も何人か避ける様にして……宮地みやじとかもそうだったかな。


 ずっと見てられる訳じゃないから分からないけれど、とにかく……俺だけが原因じゃない可能性があるって事で。


「……とりあえず、数分待つかぁ」


 でも……それなら尚更分からない。


 たとえば……宮地と俺は対立してる方だし、片方を嫌いになる事はあっても両方を嫌いになるなんて事は中々無い。


 他の冷たい視線を送られてると認識出来る奴との共通点を探してみても、全員に当てはまる事と考えると人であるとかの大雑把すぎる所にしか辿り着かなかった。


「……あ、あのっ!」

「ん……どうしたの? 名高ちゃん」

「ちょっとわたし、お手洗いに……」

「りょーかい。場所分かる?」

「はいっ……す、すぐ戻ります……!」

「はーい」


 でも、俺が原因じゃないとすれば……まぁホッとはするものの、とうとうどうすれば良いのか分からなくなってしまう。


 名高を見送った後、こっちには一切目もくれずにしおりをパラパラとめくる上城を眺める事しか出来ない俺は、この強ばった空気に段々と耐えられなくなってきて、つい話し掛けてしまった。


「あー……上城?」

「……何」

「そーいやさ、あの……しずくさん帰って来てたろ? まだ居る様なら、ガキの頃散々お世話になったんだし、挨拶でも……」


 喋っているうちに何か分かるかな……なんて安直な考えで繋げていた言葉を、俺は中断せざるを得なかった。


「っ! か、上城……?」


 だって……ふと見た上城の表情は、今まで一度だって見た事の無い程、酷く歪んでいたのだから。


「……絶っ対に、来ないで」


 そうか。

 俺はまた……失敗したんだ。

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