22.幼馴染ちゃんの異変♡

「……?」


 俺が旅館に何とか辿り着いた時、一行もまた一日目のイベントを終えて、旅館へと着いていた頃だった。


「しんちゃん!」

「おう……名高なだか、心配かけたな」

「もー、ホントだよ〜」


 名高はいつも通りこんな感じに俺にくっついてきたけれど……やっぱり何だかおかしいというか。


「えーっと、上城……しきは?」

「……小森は保健医の人の所」

「えっ……どこか怪我したのか?」

「……具合悪いって」

「そうか……。あ、次の予定は?」

「……ご飯」

「そ、そうか……」


 上城の様子が、明らかにおかしかった。


 確かに最後に会ったのはあの……しずくさん、上城のお姉さんと会った時だけれど、久しぶりに会うから感覚を忘れているでは説明のつかない程に……おかしいんだ。


 違和感のあるくらい遠い距離、素っ気ない口調、心做しか冷たい視線は……いつもの『素直じゃない』では説明がつかないもので。


「……上」

「あっ、そろそろ班長会議の時間だ。……何?」

「いや……頑張ってな」


 俺の言葉にわざと被せる様な話ぶり、返事もせずに背を向けて歩いて行く姿……。


 ……嫌われたのか?


 今まで十数年一緒に居て、こんな事なんて無かったのに……俺はいつの間にか、上城に負担をかけさせていたんだろうか。


 近々に身に覚えが無いって事は、きっとずっと前から少しずつ……って事だろう。


 確かに毎日起こさせるなんて、かなり傲慢だったよな……と、俺が落ち込んでいると、名高が周りに聞こえない様な控えめな声で俺に向かって口を開く。


「あんな態度取らなくったって良いのにね。……上城さん」

「……いや、俺のせいだよ」

「そんな事……しんちゃんが何したって言うの?! 少なくとも、しんちゃんは変な事してないハズだし……」

「……ありがとな。でも、本当に俺の問題だから……名高は心配してくれなくても大丈夫だ」


 せっかくの修学旅行なのに……名高にまでギスギスして欲しくない。


 それに、俺がまず謝らなくちゃいけないんだ。


 こんなに長い間一緒に居た上城と、訳も分からないままに仲違いしたく無かった。


 上城の方が、俺とはもう話したくも無いのかもしれないけど……それでも。


 嫌いなら嫌いと正面から言って欲しかった。

 たとえ……特に理由が無かったとしても。



****



「別に……嫌いじゃないけど」

「……え?」


 やっぱり今までずっと一緒に居た人に嫌いと言われるかもしれない事を聞くのは勇気がいる事だったけれど、夕食後のレクリエーションまでの間に思い切って聞いてみると、そんな風に答えられて拍子抜けしてしまう。


「……もう良い? ボク、忙しいんだけど」

「あ、あぁ……ごめん……」


 俺が辛うじてそう答えると、上城はまた気にも留めずに行ってしまった。


 ……嫌いじゃない?


 本当に嫌いじゃないのに、こんな様子って事なのか?

 それとも……嫌いと言ってやる価値も無いって事?


 ダメだ、頭がパンクしそうだ……。


「しんちゃん、上城さんと何話してたの?」

「……」

「……しんちゃん?」

「ん、あぁ……悪い。ちょっと……な」


 名高には悪いけれど、今はいつもの様に話せる自信が無かった。


 それに……もし本当に嫌われてないのだとしても、俺は自分を徹底的に見直さなきゃいけないんだ。


 これ以上、期待を裏切ったり嫌われたりして、大切な人が離れて行かない為にも……。


「ん、しんちゃん……どこ行くの?」

「悪い。俺、少し休むって……上城に伝えといてくれないか……」

「えっ?……レクは?」

「ごめんな」

「ええっ……?! わ、わたし、無理だよっ! 話しかけられないよぉっ……!!」

「分かった。……参加出来ないのは俺から連絡しておくから大丈夫だ。ありがとな」

「ふえぇ……?」


 混乱する名高を一人にするのは少し気が引けたけれど、とりあえず俺は……考えなきゃいけないんだ。


 きっと全部、俺が悪いんだから。


 だから……全部直さなきゃ。




 ……悪い所全部無くせばきっと、俺は一番になれるんだから。

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