12.班決めの時間です♡
「しーんちゃん!」
「……おう」
「ん……どうしたの? 具合悪い?」
「いや、……大丈夫」
「……」
班決めの時間と聞いて早速飛んで来る
だから当然、上城は明らかに心配そうな顔をして俺の顔色を伺ってくる。
「いや……悪い、あんまり日が当たる様だったから眠くなっただけだ」
「……ほんと?」
「あぁ。……心配してくれてありがとな」
とりあえず即興の嘘だったけどこう付け足せば、
「べ……別に、気になっただけだし……」
……と、こんな風に素直じゃないモードに入って紛らわせる事も知っていた。
俺が上城の扱いに慣れてるというか、上城が俺の持って行こうとしている流れに付き合ってくれているのかは分からないけど、昔から近しい関係にある俺達にとって、これはある意味様式美になりつつあるやり取りだ。
「そ……それより、班はどーする訳? 一緒の班の人はもう決まったの?」
「いや……まだ決まってない」
「ふーん……じゃ、しんちゃんはボクと一緒ね」
「……おう」
相変わらず素直じゃないけれど優しい幼なじみのお陰で、ひとまず俺は修学旅行でもあぶれる事になる心配は無さそうだった。
「班員は四人か五人……だっけ? あとの人、どうする?」
「そうだな……」
修学旅行に来てまで俺に構いっぱなしじゃアレだし、しき辺りを入れて後は上城の友達でも誘って貰えば良いか……なんて思いながら教室を見回すと、自席に座ってボーッと外を眺めているしきが見つけられた。
……あの調子じゃ、もう決まっているって感じでも無いだろう。
俺は上城に少し待ってて貰う様に伝えると、しきの居る方に向かって歩みを進める。
「珍しいな、ボーッとして」
すぐ横まで来てそんな風に言うと、無反応でもいつもの様に振り向かれる訳でも無く、しきはワンテンポ遅れてゆっくりゆっくりとこっちに目線を向けてきた。
「……しき?」
俺と確かに目線の合っているしきの表情は……何だか虚ろというか上の空というか、俺とはまるで見当違いな所を見ているように感じるというか……とにかく、他でもないしきがこんな状態になるなんて考えられなくて、俺は思わず目を見開いてしまう。
「……」
こんな時、普段なら俺の様子に「どうしたの?」くらいは声を掛けてくれそうなのに、しきはこちらを見はしても全く喋りかけようとして来ない。
そのまま両者固まって居たけれど、班決めで盛り上がるクラスの中から一際大きく聞こえた女子の一言にハッと戻された様に、俺は早口で言葉を紡ぐ。
「しき、班もう決まってるのか? 決まって無いんなら俺と上城と一緒に……どうだ?」
「……」
返事が来ない。
麻結さんの事もあってだいぶ削られてきた心が、この痛いほどの沈黙にそろそろ耐えられなさそうになっていると、
「修学旅行か……」
と、しきは唐突に呟いた。
「は……? いや、そうだけど……」
「……どうしようかな」
どうしようかな、って……行くか行かないかって事か?
まぁ確かに、参加は自由ではある行事だけど……わざわざ休むか悩む程の事でも無くないか?
「とりあえず、聞いてみるから……また明日かな。僕は入れといても入れなくても、どっちでもいいよ」
「は、はぁ……」
結局、それだけ言ったしきは言い切った様に目線を逸らし、もうそれ以上は話さない空気になってしまったので、俺は仕方なくその場を離れる。
……でも、麻結さんだけじゃなくて、しきの様子までおかしくなってしまうなんて。
どちらも偶然なら良いのだけど、他の身近な人や……俺にまで及んだらどうしようと考えると、ちょっと寒気がしてくる。
「……しんちゃん」
すっかり席に着いて、俺がそんな風に考えて顔を歪ませていると、ちょっと遠慮がちな声色で、
「ん……どうした?」
言い方は悪いが、名高に心配される程暗い表情をしていたかとちょっと声のトーンを上げて返すと、名高は柄にも無く弱々しい声で言った。
「わ、わたしも……しんちゃんの一緒の班が良いんだけど……ダメ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます