11.イベントのお知らせ♡
「皆さん、今日の特活の時間ですが……」
「……」
意味深な事を言った麻結さんだったけれど、結局あの後何かが起こるという訳でも無く。
そのままいつもの様に話す麻結さんに乗せられて、いつの間にかいつもと変わりない様に話していたら、いつもと同じ感じでさよならになって……で、結局ちょっと長かっただけの屋上の時間、みたいな感じで終わった。
でも……俺が変な訳じゃないよな?
突然何か起こるには絶好の夜だって言われたら、多少身構えたって仕方ない……よな?
前の発言もあるんだし……やっぱり彼女は何だかおかしい。
でも……そのおかしさがどこから来るのかが分からない。
ストレスは趣味で解消してるって言ってたよな?
趣味……。
麻結さんの趣味……本当に何だったんだろう。
彼女らしい趣味と考えて、ぱっと思いつくのは手芸とかお花とか?
でも……どうしても繋がらない。
それなら彼女の事だし、実物を持って来ていたり、写真を見せてくれたりしたっていいハズだ。
麻結さんは写真が好きなのか、屋上で会うときはもっぱら今日お互いにあった事や麻結さんの撮った写真についてだし。
写真を見せながら、いつもの様に……楽しげにその時の事を語ってくれたっていいハズだ。
……だって、恥じるものでも隠すものでも無いだろ?
俺の予想が合ってるんなら、ただの女の子らしくて可愛い趣味なのに。
「……」
じゃあ……スポーツ系?
麻結さんがやらなさそうなスポーツ……格闘技とか、かな。
それなら彼女のイメージ的に言いたく無いのも分かると思いかけたけど……スポーツなら尚更、誰を殺す殺さないとかの発言は如何なものかと思われるし、何しろ感がいい以前に国語の先生である麻結さんがそんな事に気づけない訳が無いと思うし……。
……でも、そうか。
麻結さんは国語の先生で、言葉についてまわる『重み』は人一倍知っているハズなのに……それで尚、俺にその言葉を語ったんだ。
……麻結さんにとっては、そこまでして伝えたかった事だったのか?
それとも……それを知った上で語らざるを得ない程心動かされたのか?
前の発言……人間はすぐ死んでしまうってのも、結局身近な人が死んじゃったりとかして心がちょっと
もし、その言葉がどちらとも、彼女の『趣味』と関連があるんだとすれば……。
「……下川くん?」
「!」
背後から急に名前を呼ばれた俺は過剰に反応してしまって、机を大きく鳴らしながら振り返る。
……そこには、いつもの笑顔を浮かべる麻結さんが居た。
「ま……」
「下川くんも、ちゃんと決めなきゃダメですよー」
……決める?
え、何を……だ?
妙に止まらない冷や汗と強ばる表情を何とか誤魔化す為に無理やり口角を上げてみると、麻結さんはいつもの調子のまま首を傾げる。
「あぁ……。下川くん、特活の時間だからって、ちゃんと聞いてなきゃダメですよ?」
それから、麻結さんは何かに気づいた様にそう言ってのける。
いつもの言動にまるで変わりないのに、違和感が恐ろしい確信に変わりそうな今には、ちょっとした動きでも何かの布石なんじゃないかと思えて仕方なかった。
例えば、その腕に抱えている日誌の裏にはナイフが隠されているんじゃないかとか。
例えば、その手先には猛毒の針が仕込まれているんじゃないかとか。
例えば、こちらに伸ばされる手が俺の首を絞めて殺してしまうんじゃないか……とか。
「っ……」
……そうか。
俺は……彼女がもしかして、殺人鬼なんじゃないかって……そう思ってしまったんだ。
「……では、これから修学旅行の班決めを行ってくださーい。……下川くんも、ね」
いつもとまるで変わらない表情で笑みを浮かべ続けている、この彼女を。
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