20.明日は楽しい修学旅行♡

「にいちゃん、楽しみ?」

「おう、楽しみ楽しみ。……でも、一人で平気か?」

「うん! へーきだよ!」

「……」


 あっという間に修学旅行前日になった。


 あれ以来、あの黒髪ロングの人は見ていないし、ついでにしきも見ていない。

 そして……何故か、上城かみしろも。


 元々上城は頭が良い方だし、俺が夏期講習に行くと言ったから自分も行くんだと言ってただけだし、ダメな訳では無いんだけれど……やっぱり何か嫌な予感がする。


 ……まぁ、それも明日になればわかる事だ。


「……よし。飯は冷蔵庫に作ってあるから、ちゃんとメモにある分の時間レンジにかけて食べる事。……分かったか?」

「はーい!」


 やっと三日分の作り置きが完成し、俺はそれらをなるべく真吾しんごの手の届く冷蔵庫の下の方に置いておく。


 バタンと扉を閉めれば、後は荷物の確認くらいか。


 でも、六時……か……。


 どうやったって起きれる気がしない。

 逆に起きっぱなしの方が良いまで思えてくる。


 ……が、それで睡眠不足で迷惑をかけるにはいかないので、俺はせいぜい早く寝るしか対策のしようが無かった。


 頼るのは申し訳ないけど、上城もいつもの様に助けてくれるハズだし。


「ん……? あっ」


 そんな事を考えながらしおりと荷物とを照らし合わせていると、ふとシャー芯の残りが僅かしか無い事に気づいた。


 最近色々ありすぎて、買い置きしておくのを忘れてたんだ。


 ……仕方ない。


「?……にいちゃん?」

「ちょっと足りない物あって、コンビニで買ってくる。真吾は先に寝て……あ、何かついでに欲しいものあるか?」

「ううん。……気をつけてね」

「おう」


 不思議そうに聞いてくる真吾にそんな風に答え、コンビニでバラで買うのは惜しいけどしょうがないな……なんて思いつつ、遅くならないようにと早足で家を出ると、


「きゃっ!」

「ぅおっ!!」


 家を出て曲がったすぐの所で、誰かに肩を思い切りぶつけてしまった。


「すみません、大丈夫で……」

「あっ……!」

「えっ、名高なだか……?」


 ぶつかったのは、確かに名高だった。


「えっ?! い、いや……えっ?!」


 この反応……もしかして変装しているつもりなんだろうか?


 確かに黒いパーカーにフードまで被ってマスクもしっかりしているけれど、そのパーカー自体が明らかに名高の趣味満載のフリフリのたくさんついてるものだったし、……あんまりこういう所は触れたくはないけれど、そのいささか豊満すぎるそれに見覚えが無いと言うのは、さすがに無理がある事だったし……。


「とりあえず、ほら」

「……。う、うん……」


 キリが無いので俺がそんな風に手を差し伸べると、名高はそれに掴まって引き上げられる。


「こんな所で何してたんだ?……俺に何か用だったのか?」

「え、あー……えーっと……」


 言い訳しなきゃいけない事なのかは分からないけれど、明らかに答えが見つからないという様に動揺される。


「……あっ! えーっとね、偶然! 偶然通りかかって……! それで、どうしてるかなーって思ってちょっとだけ……」

「?……そうか。俺はこれからコンビニ行くけど、こっちに用か?」

「あっ……う、うん!わたしもコンビニ!」


 変に深掘りしようとして気まずくなるのも時間をとるのもアレだったので、俺はそんな風に言ってひとまず一緒にコンビニまで行く事になった。


「じゃあ……行く?」

「おう。……あ、ちょっと」

「ん?」


 そのまま進みかけた時、足元……ちょうど名高が転んだ所辺りに黒くて四角い何かを見つける。


「これ、名高のか?」

「ん?……あっ!!」


 俺の言葉に、名高は焦りながらそれをカチャッと拾い上げてすぐさまポケットにしまう。


 何だかメカメカしかったけど……まぁ、これも今は触れないでおこう。


「……でも、あんま夜に出歩くと危ないからな」

「!」


 二人でコンビニへの道を進み始め、改めて名高の姿を見て俺がついそう言ってしまうと、名高は心底嬉しそうな笑顔で答えた。


「うんっ! しんちゃんは優しいね……♡」

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