14.夏休み前日ですよ♡

「……しき」

「ん、何ー?」

「……」


 やっぱりどうも、様子がおかしい。

 班決めの次の日登校して来るや否や、修学旅行には行ける事になったと言ったしきは……その時から、何だか不安定なんだ。


 どう不安定かというと説明はしずらいのだけれど、明らかに今までとは様子が違う。


 やけにテンションが高いし、空元気とは違うけれど上の空な所もあるというか。


 ……何だか心配だな。


 だけど、俺が干渉していいものなのかも分からないし……。


 嬉しい事なら、しきから何となく話してくれるのを待っても良いんだけれど……どうもただ嬉しい事があっただけでは説明がつかないというか、そうまでなるか? とは思いつつも、やっぱり直接聞くのははばかれるというか……。


 ……やっぱりこういう所だよな。

 親密になった人相手にはいくらでも熱くなれるのに、しきの様な適切な距離感のある相手が一緒に居やすいとは思いつつ、その距離感があるからどうしたって深入り出来ないんだ。


「はい。皆さん席についてくださいねー、ホームルーム始めますよー」


 麻結まゆさんの言葉に、俺はしきの席の前で相手にもされず立ち尽くしていた事に気づいて、「またな」と言い残して慌てて席に戻る。


「……はい。明日からは夏休みですが……」


 そういえば……さっき終業式を終えてきていたんだっけか。


 最近色々ありすぎて、さすがにそろそろパンクしそうだったから、こんな風に時々心を逃がさないと正直持ちそうにない。


「……しんちゃん、夏休みだよ♡」

「ん……あぁ」

「一緒にお出かけしようね? ねっ?」

「……あぁ」


 すると、隣の席から名高なだかがそんな風に話してくる。


 名高もあの時から……肝試しを一緒に回るってご褒美を飲んだくらいから、積極的というか強引というか、そんな風になってしまったし。


 ほんと……一体、俺の周りでは何が起こってるって言うんだよ。


 もうここまで来れば全部俺が原因なんじゃないかって思ってしまって、やっぱりどうしても心がやられてしまいそうだった。


「……では、怪我や事故に気をつけて、楽しい夏休みを送ってくださいね」

「起立ー」


 麻結さんの締めの言葉の後に続いて聞こえる言葉に席を立ちつつ、俺は考える。


「礼ー」


 あれからもたまに屋上で会う時、麻結さんは物騒な事とか雑学とかを語るけれど、段々と俺もそれに慣れてきて、麻結さんの個性だと解釈する事が出来るまでになってきた。


 しきも名高も、いずれそう思って変化を受け入れられる時が来るんだろうか。


 でも、さすがに上城かみしろまで変わってしまったら……物覚えのつく前から一緒に居る幼馴染の変化を目の当たりにして、俺はさすがに参ってしまいそうに思ってしまうけれど……。


「さようなら」

「「「さようならー」」」


 ……でも、こんな明らかに周りが変化していく中、俺と上城だけ何も無いのもそれはそれでおかしな話だ。


 いや……俺だってもしかしたら、自分では気づかないだけで、傍から見れば何か変化してるのかもしれないと考えると……。


真次しんじー」

「! おう、しきか……」

「ちょっとだけらしいけど、いつものとこね」

「……。あぁ、ありがとな……」


 そんな事を考えている間に、挨拶まで終わっていたらしい。


 ……明らかに変わっているとしても、こうやって伝言係は相変わらずやってくれるあたり、本当に自分が変わっていると見られているのに気づいていないんだろうか。


「はぁ……」


 思わずため息をこぼしてしまって、慌てて聞かれてはいないか辺りを見回すと、夏休みに入った事で騒がしい廊下には、そんな小さなため息を拾う人なんて居なくて少しホッとしつつも階段を登る。


「しんちゃん?……どこ行くの?」

「っ! 名高……」


 が、ホッとしている場合じゃなかったんだ。


 今日は特に、廊下が騒がしかったから……ついてくる影があるなんて、今の俺には分からなかったんだ。


「……しんちゃん?」


 このまま登ったって屋上しかない階段に足をかけている所を見られ、俺はその場に固まる事しか出来なかった。

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