15.目撃♡

『しんちゃん?……どこ行くの?』


 帰り道、先程のやり取りを思い出してまたゾッとする。


 あれはマジで……本当に危なかった。


『……しんちゃん?』

『いや、えっと、あのだな……!』


 俺はテンパりすぎて、言い訳なんかも勿論考えつかず、名高なだかの勘があと少しでも良かったら……があと一秒でも遅ければ……どちらにせよ俺は、致命的な疑いをかけられるのを避けられなかっただろう。


『どうしたんですか?』


 麻結さん。

 ピンチの時とか大きな出来事のには必ずと言って良い程俺の元へ現れて、軽いこなしで解決していく……文字通り物語の中のヒーローみたいな人だ。


下川しもかわくん、屋上の収納の方にありましたか?』


 麻結さんは一瞬たりとも動揺せずに、いつもとただ一つさえ変わらない身のこなしでそう言ってのけた。


『い、いえ……今から見に行く所で……』

『そうですか。……早く用事が終わったので、後は私が探してみますね。お手伝いありがとうございました』

『は、い……』


 俺もそのいつも通りさに安心したのもあり、何とかその即興の話に乗って切り抜ける事が出来た。


 チラッと名高の方を見ると、やっぱり麻結さん相手にも人見知りしていたから意義も唱えず大人しくしていたから助かった。


『では、お気を付けて。……夏休み中も、ちゃんとお勉強するんですよ?』

『……はい』

『はい。……さようなら』


 でも……夏休みになってあんまり会えなくなる中、最後いつもの様に屋上で話せなかったのは、ちょっと痛かったかもな……。


 この町は無理にしても、隣町……隣の隣くらいまで手を伸ばせば二人で夏祭りくらいは行けるだろうし、それとなく誘ってみるつもりだったんだけれど……まぁ、まだチャンスはあるか。


 この先夏期講習も、修学旅行もある訳だし。


 心配事はたくさんあっても……まぁ、皆成長していくんだし全くそのままってのも変な事だし……うん。


 そもそも、大切な人の変化さえ受け入れられなくてどうするんだって事だ。


 そうだ。

 今までの俺は……他人の変化に敏感になって、それを拒絶していただけなんだ。


 俺が今しなきゃいけないのは……そう。

 変わった他人をその人のまま受け入れる事だ。


 そして、その代わり……それが悪い変化だと気づいた時は、全力で止める。


「……」


 例えそれが間違ってたって、そう考えておけばどんな事があったって、俺の心は……


「あははっ! しんちゃん大好きーっ!」

「っ!」


 ……もう家の目の前まで来た時、知らない声がよく知った呼び名を呼んだ。


 訳の分からない状況と、最後ちゃんと考えを至らせてスッキリも出来なかったモヤモヤも相まって、俺は険しい顔を紛らわせないまま、ぎこちない動作でゆっくり振り返ると、


「しーんちゃん!」

「ちょっ……人来ちゃうだろー?!」


 ……あぁ。


 『しんちゃん』って、真吾しんごの事か。


 ……。


「ほら、家着いちゃったから……また、ね?」

「えーっ、もっと話そうよー?」

「……分かった、明日ちょっと時間作るから」

「ほんと?!……約束だからね!」

「……ん!」


 真吾が手を振ると、そいつはスキップしながら俺の居る方とは反対の方向に帰って行った。


「ん……あ、にいちゃん! おかえり!」

「……」


 俺は真吾が家に入って行った後、少し間を置いて玄関の扉を開ける。

 その先には、今さっき帰って来たばかりといった様子の真吾が居た。


 ……まぁ見てたから、そうなのは分かるんだけど。


「……にいちゃん?」


 真吾は自分の言葉に返事をしない兄に違和感を覚えたんだろう、覗き込む様にこっちに視線を送りながら遠慮がちに聞いてきた。



 その言葉に、俺は心配させまいと笑顔を向け、を呼んだ。


 それは……今一度確認する為だったけれど。


「! な、なぁに……?」


 優しい言葉をかけられて、靴下も脱ぎかけのまますぐにホッとした様に笑顔になってしまう大切な弟に、俺はいつもの様に『兄らしい』言葉を投げかけた。


「真吾。明日から俺の方、夏休みでさ。……たくさん遊んでやるから、明日は早く帰って来いよ?」

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