16.仲良し兄弟♡

「えっ……?」

「どうだ? すごいだろ!」

「う、うん……でも良いの……?」

「おう。……実は、今まで溜めてたんだよ」


 帰ってくるや否や見えたそれに、真吾は目を輝かせつつも、嬉しさを通り過ぎて困惑まで感情の手を伸ばしていた。


 ……無理も無いだろう。


 だってそれは、この家庭にはきっと……一生来る事が無いと思われたであろう物なんだから。


「……おれも使っていいの?」

「当たり前だろ、お前に買って来たんだから」


 まだ確証が無いのかそう聞く真吾しんごに俺がそう答えつつそれを指さすと、真吾はゆっくりと近づいて、抱きかかえるように持ち上げた。


「えへへ、witchだぁ……!」


 そこでやっと心配に嬉しさが勝ったのか、真吾はそんな風にはしゃぎ出す。


 ……やっぱり、まだ無理させてるんだな。


 真吾が不自由なく楽しんでくれるなら、こんな家庭用ゲーム機一台あったとして、それが当たり前でしょ? なんて言われたって良かったけれど、どうしても家はそういう訳にはいかないし……。


 真吾はもうちゃんと状況を分かっていて何かを欲しいなんて言わないけれど、やっぱり欲しいものは欲しいと言って、俺がダメだと言ったら駄々をこねるくらいしてくれたって良いのに。


「にいちゃん、ありがとう!」


 ……でも、いいか。

 こんなに喜んでくれるなら、数年前からちょっとずつ、影響にならない程度にゲーム用に貯めてきて良かったと思うし。


 だいぶ流行りに遅れてしまった気はしても、それでこんなに喜んでくれるんだから。


「ほら、俺の分のコントローラーもあるんだ。……一緒にゲームできるぞ」

「ほんと?!……にいちゃん、一緒にゲームしてくれるの?!」

「おう」

「わーい!!」


 俺が別に買っておいたコントローラーを見せると、真吾はまた一層はしゃぐ。


「……ねぇにいちゃん、開けていい?」

「ん、いいぞ。充電までしとこうか」

「はーい!」


 そういえば俺も……ゲーム機なんて、いつぶりに触っただろうか。


 やっぱり俺だってまだ子供だからか、隣で丁寧に箱を開いてゲームを取り出すのを見ているうち、段々と心はワクワクしてくる。


「うわぁー! 画面きれー!!」

「だな! 鏡みたいだ……!」


 思わず声を大にして答えると、真吾は俺の方を振り返りって笑った。


 その笑顔は、何て言うか……いつも自然な笑顔ではあるんだけれど、どこか心配気味な影もある、あのいつもの笑顔とは少しばかり違う気がして……


「にいちゃんも、一緒に遊ぼうね!」


 ……あ、そうか。

 これが、『保護者』じゃなく『兄』に向ける笑顔なのかもしれないな。


「当たり前だろ。……たくさん遊ぼうな」

「うん!」


 そういえば俺は、真吾の前で……兄らしい所は見せたかもしれなくても、『大人』じゃなく『あくまで子供な兄』の一面は殆ど見せてない気がするな……。


 そもそも、俺がそんなに子供っぽい様に見られることの少ない人物だということは置いといて……真吾に遠慮させてないかとか、親戚の家にいるように思わせてないかとか考える前に、俺自身がそうさせてたのかもしれないと思うと、適度にこうやって息抜きというか、初心に帰るのも悪くは無いのかもしれない。


「でも……今日はだいぶ早く帰って来たな。大丈夫だったのか?」

「……うん! にいちゃんが遊んでくれるって言うから、ちゃんと急いで帰って来たんだよ」

「そうか。……俺に遠慮せず、友達とかとも遊んで良いんだし、ゲームも飽きたら放り出しても良いんだからな?」

「……分かってるよ。でも、にいちゃんが一番大事、……だから!」

「……そうか。にいちゃんも真吾が大事で……とっても大切に思ってるよ」

「えへへ!」


 一番大事と言われて、つい頬がほころびそうになるのを抑え……と思ったけれど、ここは良いんだっけか。


 俺は表情を崩しながら、真吾に向かって続ける。


「とりあえず、明日は好きなカセット買ってやるから、その後ゲームしような?」

「あ、明日?」

「おう。……都合悪いか?」

「……ううん! 大丈夫!」


 ゲーム機を囲んで、俺達兄弟はもう少し仲良くなれた気がした。


 次の日もまただいぶ早く帰って来た真吾を見て、それが俺の一方的な思い込みでは無いのかもなと思いつつ、その日は一日中ゲームを楽しんだ。

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