42.転校生ちゃん♡
しきを壊した少女。
そして……
「大神さんは、私のいとこなんですよ」
「うん」
……
「ふふっ……だからといって特別扱いは勿論しないので、安心してくださいね」
そう言って笑う麻結さんは……やっぱり、本当に知らないんだろうか。
俺は……目撃してしまったとはいえ、しきがあそこにいた事は誰にも言っていない。
だからあれから発見されたのかも分からないし、発見されたとしてどうなったのかも分からないし。
もし知らないのなら伝えるべきなんだろうけれど、でももし……もし麻結さんが全て知っていたならと思うとどうしても怖かった。
「えー、大神さんの席ですが……」
そんな事を考えているうち、麻結さんはそう言って日誌に挟まっていたプリントを一枚取り出す。
俺は幸いにも真ん中の方だったから、近くになる事はあっても隣になる事は無いだろう……なんて安心していたからだろうな。
麻結さんの次の一言に俺以外のクラス中ははしゃぎ出し、俺は嫌な予感に青ざめた。
「……丁度いいので、席替えにしちゃいましょうか!」
****
席替え……それは、ある者にとってはハズレの無いあたりくじ。
そしてある者にとっては……大きな爆弾との死闘でもある。
「……しんちゃん」
「ん……何だ」
始業式も終わり、とうとう席替えの時間となり次々に引かれていくくじの結果に集中していると、ふと
俺が聞き返しつつも目線を向けると、名高は妙に気合を入れて立ち上がっていた。
「わたし……何としてでもしんちゃんの隣、死守するから……っ!」
そうか……名高と隣なのも、もう最後なのかもしれないのか。
今まで何だかんだずっと隣だったけれど、流石に今回も隣……なんて事は、かなりの確率になるだろう。
「だから……パ、パワーちょうだい!」
「……パワー?」
「うんっ……あの、手……ぎゅって」
「あぁ……」
おまじないって事だろうか。
やっぱりこういうのが好きな女子が多いのは高校になっても変わらないのか……と思いつつ、言われるがままに差し出された手を握ると、名高は肩をすくめてぎゅっと握り返し、そのまま数秒繋いでから、
「うん、バッチリ……! しんちゃんパワーで頑張ってくるね♡」
と、小走りに教卓の方へ向かって行った。
そういう言い方をされると何だか自分が怪しいパワーの送り主になってしまった様な気分になるけど、まぁそんな事は置いておいて、再度黒板の方を確認する。
一番最初にくじを引いた大神……さんの席は、一番窓側の後ろから三番目の席。
……まだ、その隣は決まっていない。
「えいっ……!」
そういえば俺より前に引くんだから、パワーを貰うのは俺の方じゃないのか? なんて疑問も抱きつつ見ていた名高の引いた席は、
「しんちゃん!」
「ん……どこだった?」
「えっとねー……窓側の後ろから二番目のとこ! あそこ!」
「……!」
タイムリーにも、大神のすぐ後ろだった。
「
「え……あ、はいっ」
「次、引いてくださいねー」
それに俺が嫌な予感しか抱かない中、とうとう俺の番が来てしまった。
重い足取りで教卓の方に移動し、麻結さんの持つ箱の中から、祈りつつも俺は一枚の紙を引いた。
****
「えへへ……わたし、やっぱりついてるのかも……♡」
「しんちゃん前かぁー。……授業中、振り向かないでよ?」
すっかり席を移動し終えて、もうすっかりイツメンの上城と名高にそんな風に話しかけられる。
結局……俺達の配席は、俺の左横に名高、その後ろに上城と、くじにしては奇跡的なそれになった訳だけど。
「っ……」
真後ろと違ってちょっと表情が見えたり手元の様子が伺えるのがまた……厄介だ。
……そう。
こんな様子で始まった新学期だけれど……俺は、俺達は欠ける事無く、このまま学園生活を送る事が……果たして出来るのだろうか。
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