5.知ってる?♡
「
「良いんだよ、
「は、はぁ……」
良いんだろうか。
麻結さんとこんな……。
「下川くん」
「! は、はい……っ」
柄にも無く声が裏返ってしまって、途端に恥ずかしくなってくる。
だって俺と麻結さんは付き合ってるとはいえ、傍から見れば先生と一生徒でしかなくて、それがそんな……。
「こんにちはー!」
「こんにちは、
「……!」
ガラガラ……っと、勢いよく扉を開ける音に、俺はつい軽く飛び跳ねてしまう。
不審に思われてないだろうか……そんな不安や焦りから、何だか異常に挙動不審になってしまうし。
「下川くん、初めてだからって緊張しなくても大丈夫ですよ」
「い、いえ、緊張って程じゃ……」
「あはは、下川緊張してんのー?」
麻結さんはやっぱりそんな俺に真っ先に気づいフォローしてくれるけれど、中野がそれを茶化すので結局俺のプライドは崩される。
……が、そのお陰でさっきまでの挙動不審さはだいぶ薄れてくれた。
「でも……驚いたよ。どうして急に下川が助っ人に来てくれる事になったの?」
「下川くんは優しい子だから、私が困っていたのを見かねてでしょう」
「へぇー……あの直帰ばっかりの下川が、ねぇ……?」
「それは……」
……そうか。
俺が毎日の様に放課後屋上で麻結さんと会っているのも、中野達とかの事情を知らない奴にとっては、直ぐに家に帰る奴としか見えていないのか。
確かにそんな奴が急に放課後委員会活動を手伝う……なんて言い出せば、何か裏があると思われてもしょうがないのは当然の事で。
「あっ、ごめんなさい。この間に書いておかなきゃいけない日誌を教室に置いてきてしまったみたいで……少し待ってて貰えますか?」
「えっ……はい」
「ん、すぐ帰るからねー」
「……」
で、そんな事を考えていたら、麻結さんはそう言って図書室を出て行ってしまった。
……中野と二人で取り残されるなんて無いし、何だか気まずいな。
「し……下川!」
それは中野も同じなのか、明らかにぎこちない態度で話し掛けられる。
「……何だ?」
「いや、えーっと……下川も策士だなーって」
「策士?」
もしかして……麻結さん目当てだと思われたんだろうか。
付き合ってるのがバレるのは勿論嫌だし何としても避けたいけれど、俺が一方的に麻結さんに憧れないし恋愛感情を持っていると誤解されるのは……いや、それも動きにくくなるのには変わりないか。
「……何の事だ?」
そんな結論に至った俺がとぼけた様に言うと、中野はそれに笑って言った。
「とぼけんな!……麻結ちゃん先生に媚び売って、成績を上げて貰おうなんて魂胆、アタシに見破れないとでも思ったのー?」
……なるほど、そう思ったのか。
確かにそうとも考えられる……な。
「……内緒だからな」
そうと分かれば俺のやる事は一つ、同意あるのみだ。
あらぬ誤解……では無いけれど、麻結さん目当てだと思われる可能性が無くなるなら成績目当てなんて、逆に高評価が付いても良いくらいだ。
「『内緒』って!! 下川のクセに可愛いかよ〜!!……分かったよ、アタシ達だけの内緒ね?」
「あぁ……助かる」
中野の方も、何かが刺さったのかテンション高めに俺の『内緒』に了承してくれた。
「お待たせー」
そしてそんな風に話が纏まると、タイミング良く麻結さんが帰って来た。
「……下川くん、ちょっと良い?」
「えっ……は、はい……」
すると、彼女はすぐさま俺だけをご所望で、俺は一瞬不審に思われないか不安になるものの……ここで遠慮した方がかえって不審だ。
俺は麻結さんの方へ行き、二人で廊下に出ると彼女は図書室の扉を閉める。
それで……彼女は何て言ったと思う?
少なくとも、俺は驚いた。
だって彼女はそもそもこんな事を言う人では無いし、今の様にに急に突拍子も無い事を言う事なんて、今まで一度だって無かったからだ。
でも、確かに彼女はこう言った。
「ねぇ……知ってる? 人間って、本当に簡単に死んじゃう……脆い存在なんだよ」
……と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます