18.夏期講習は大騒ぎ♡
「はい、ではプリント配りますねー」
夏期講習……とは言っても、殆ど学校が用意したプリントを黙々と解いていくだけらしい。
だから、他の教科でも
「しんちゃんしんちゃん、ここ分かる?」
「ん? あぁ、ここはだな……」
俺は幸いにもプリントの内容くらいは解き切れる頭は持ち合わせて居たので、そんな風に聞いてくる
「皆さん、プリントは大体終わりましたかー?」
すると、さっきまで何かの採点作業をしていた麻結さんが、そんな風に声を上げながら立ち上がる。
「実は数学科の
さっきまで黙々とプリントを解いていただけだったので、当然クラス中はこれだけしか人数が居ないとは考えられない程圧倒的な賛成の声で騒がしくなる。
「……良かったです。では黒板に書きますね、分かった人は私の所に来て、コソッと答えをお願いします」
麻結さんはそんな風に言いながら、再現する様に片手を耳に当てて見せる。
……何だかちょっと、えも言われぬ気持ちになったのは、きっと俺だけじゃない……ハズだ、きっと。
「……麻結ちゃんせんせー、ご褒美はー?」
だから……こいつにだけは、何としてでも解いて欲しくない。
「あら……
「んー……麻結ちゃん先生のご褒美あるならぁ、オレ頑張れちゃうかもー♡」
「ご褒美……ですか」
さっきまでずっと机に突っ伏してたクセに、こういう時だけ調子に乗り出す姿は……ある意味一番変わっていない、安定感のある存在とも言えるかもしれないけれど。
「そうですね……宿題を私の一存で減らす事も出来ませんし、お金のかかるものをかけてしまっては楽しめなくなったら元も子も……」
麻結さんも断れば良いのに、そんな風に『ご褒美』を真面目に考え出す。
俺がそろそろ、この場に居るたった二人の男子のうちの一人として本気で止めに入ろうかと悩んでいると、麻結さんは何かを思い付いた様に表情を柔らかくした。
「では、こんなのはどうでしょうか?」
何だかんだ言って、女子も……クラス中、麻結さんの答えを気にして待っていたんだと思う。
びっくりする程しんとした教室に響いたのは、
「一番に分かった人は、先生に何でも質問出来る権利を得る。……どうでしょうか?」
好きな食べ物とか色とかを聞かれるんだろうと本気で思っていそうな、そんな邪な気持ちなんて一切無いと思い込んで決めたのかと言うような答えだった。
「……では、問題の方書いていきますね」
宮地は絶対に下衆な質問をするという事は前提に……今どき女子高生だってそんな優しい質問はしないだろう。
彼氏が居る居ないとかだって、優しい方だろうし。
「……」
教室中が息を飲んで黒板の方に集中するのが見ようとしなくても分かる。
これは……何としてでも俺が勝ち取って、最高に純潔な質問を投げかけなければいけなくなってしまった。
「はい……この問題を解けた人は、私の所に来てくださいねー」
そう言ってチョークを置く麻結さんを横目に、俺は頭をフル回転させて考え込む。
が……運の悪い事に、単純に計算するというよりはひらめき重視の問題……俺の苦手な分野だったから、
「はーい!」
……呆気なく先を越されてしまった。
「はい、宮地くん」
「……え?」
でも……宮地に越されるなんて、思いもしない訳で。
一瞬目を見開いたものの、流石にいつものおふざけか……と俺が苦い顔をしつつも安堵していた時、俺の耳に入って来たのは……
「わぁ、宮地くん素晴らしい! 正解です!」
……確かにそう言う、麻結さんの声だった。
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