46.浮かび上がる疑惑と真実♡

「……」


 突然の乱入者に先生はちょっと驚いた後、更に増えた対処しなくちゃいけない問題に頭を抱える。


って、あのなぁ……」

「……アタシもあのサイト、見たんです」

「……」

「それに……先生なら知ってますよね? アタシのお兄ちゃんの事」

「!」


 中野なかのの言葉に、先生は過剰に反応する。


 そう……中野にはちょうど、と重なる兄が居るらしい。


 本当は兄からそんな話を聞いた事は無かったらしいけど、これから中野の話す事は……


「アタシ、思い切って聞いたんです。……でも、やっぱりどうしても信じられなくて……先生の口から、ちゃんと聞きたいんです」


 ……ハッタリだ。


 嘘をつく時真実を混ぜると良いとはよく言ったものだけれど……先生には効果的面だったらしい。


 この手を使うのなら二人の前茶番は要らなかった様な気がしないでもないけど……中野曰くそれは問題が大きくなりそうな、要は焦りの演出らしい。


 まぁ……確かにそれが仮に真実なのだとしたら、ネットに書き込みされてるのを生徒が見つけて騒ぎ立て、知らなかった人まで何だ何だと注目し出してるこの状況は……焦る自信しかない。


 それをオカルト同好会じゃない二人に任せる事、更に自分の兄を持ち出してくる事で、ただ怪しい活動の一環で聞きに来た訳じゃない空気を作ったって訳か……。


 ……これでもう完璧な気がしないでも無いけど、中野によると最後に優等生で真面目な男子生徒からの『ある一言』が重要らしい。


「俺からも……お願いします。中野の為にもってのもありますけど、ただの好奇心からじゃないんです。……口外させない事は、俺が保証しますから」


 数の暴力って一面もあるだろうが、数少ない男子生徒、それも優等生な奴の一言はこういう義理堅い先生ほど『重い』。


 こう責任を持ってしてまでクラスメイトに協力しようとする姿が、自分の過去の学生時代に重なる……らしい。


 確かに主人公タイプな学生生活を送ってそうな先生だけど、そこまで考察出来るのならオカルト同好会よりももっと良い居場所があると思うけど……それについては黙っておこう。


「はぁ……」


 先生は大きく息をつく。


 噂のままだとしても、傷害事件が誇張されたものだったとしても……ここまで言って出る言葉は、ほぼ真実だと思って良いだろう。


 どちらにしろ、一切何も無かったなんて事は今までの反応からゼロに近いんだし、何かしらの真実が得られるのは確かで……。


「……分かったよ」


 ……そう考えると急に現実味が湧いてきて、さっきまでパズルゲームをやっていた気分だったから気づかなかったけど、途端に一端の高校生が知っていいものなのか不安になってきてしまう。


 が、先生はそんな俺に気づくハズも無く口を開く。


「大体、六年くらい前……」

「……あら、皆さんに……幸野こうの先生まで?」

「! ひじり先生……」


 それを止めたのは……意図せず登場した麻結まゆさんだった。


 そこで俺は……やっと思い出した。


 確か……俺が高校を決める時だったか。

 特にこだわりは無かったから一番近い高校にしようかと思ってたけど、麻結さんがここに赴任して来るって聞いて、ちょっと遠めだけどこっちにして……まぁどっちにしても徒歩圏内だし変わらないなんて話をしてた時、流れでちょこっと言ってたかもしれない。


 『今』麻結さんが居るかは勿論重要だったけど、『過去』居たかどうかなんてあの時は大して気にして無かったから……今まですっかり忘れてた。


「……どうしたんですか? 皆さんでこんな所に集まって」


 思い出すと同時に、いつもと変わらない様子でそんな風に話し掛けて来る麻結さんが、今はどうしても……関係の無いものだと見る事が出来なかった。


 ……そう。

 六年前……麻結さんは確かに、ここの生徒だったんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る