明治幻想奇譚 不死篇 魔術師の章
藤巻舎人
第1話 怪盗稲妻小僧
「お前が稲妻小僧とかいう盗人か」
深夜の東京市内某所、月明かりの下、俺は民家の瓦屋根を踏みしめ、ピースメーカーの銃口を向けた。
「だったらどうすんだい?」
頬被りをして目と口だけ出した男が軽口を叩く。
銃口を向けられた状況で、肝が据わってるぜ。
「恨みはねぇが探偵稼業でね。テメェをとっ捕まえる」
「探偵? あんた探偵なのかい?」
「そうよ」
「金の為か。なんだ、オイラと同じじゃないか」
「一緒にすんな。俺は世為人の為って、その声、テメェまだ子供なのか?」
声音や口調から、ウチの居候兼助手の春日とそんなに変わらないんじゃないのか?
「オイラはもう子供なんかじゃねぇよ!」
そういい終わるか終わらないかの内に、稲妻小僧は俺の直ぐ目の前に現れた。
速い、なんてもんじゃねぇ。なんか術でも使ったのか⁉
意表を突かれ反応が遅れた俺の銃を、稲妻小僧は手で払いのけた。
「へっ、あんたになんか捕まらねぇよ」
「あ、ちょっ・・・」
吹き飛んだ銃が、屋根瓦の上を警戒に転がり落ちていく。
「オイ! アレ、結構お高いんだぞ!」
俺が落ちていく銃に気を取られている隙に、稲妻小僧はあっという間に道を挟んだ向かいの家の屋根に移動した。
ピースメーカーは無情にも地面まで堕ちていった。
「コラー! 人んちの屋根でなにとんじゃー‼」
追い打ちをかけるように、足元の家主が窓を開けて怒声を飛ばしてきた。
「すんませ~ん。直ぐ済みますんで~」
俺は精一杯猫撫で声で謝る。
「オイラは逃げる、あんたは仕事で失敗。直ぐ済みそうだな。それじゃ、サラバだ!」
お向かいの家の屋根で、稲妻小僧が月明かりの中で笑った。
クソ、逃げられる。
と思ったが、稲妻小僧は片手を挙げたまま動かない。
ん? どうした?
「あれ、なんか、体が動かな・・・」
小僧はふざけた笑顔を浮かべたまま、直立不動で呻く。
「はい、君はもう動けない! 何故なら私が逮捕するから!」
不意に稲妻小僧の背後から奇声が聞こえたかと思うと、いきなり男の姿が現れた。しかも警官の制服を着ている。最悪だ。
「いくら稲妻のように速く動けても、体が麻痺してしまったら終わりだな」
雨夜さんみたいに暑苦しい長髪の警官制服優男は、勝ち誇った態度でいった。
「オイコラ‼ そいつは俺の獲物だ! 横取りするんじゃねぇ‼」
「君がトキジク君だね? 噂はかねがね。しかし横取りとは聞き捨てならんねぇ」長髪優男警官は腹立たしい笑顔で肩をすくめる「君は目の前で彼を取り逃がすところだったんだよ? しかも私は警官だ。捕まえるのはそもそも私の役目・・・」
「問答無用っ‼」
俺は思いっ切り跳躍し、道を越え、両足揃えた蹴りの態勢で、優男に向かって突っ込んだ。
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