第13話 アレイスター・クロウリー
時間が惜しい気がして、俺は飛行術で鎌倉駅まで戻ることにした。単に暗い中、あんな足元の悪い下り道を歩きたくなかったからでもある。まぁ、術師の特権だ。
駅から少し離れた人目の付かない場所に降り立ち、クロウリーが滞在しているというホテルを探した。
しかしその恐らく英国人であろうクロウリーは、いったいどういう人物なのか。どっからかの盗品を抱えやって来て、異国の地で素知らぬ顔して売り捌き、しかも追われる身とは。
しかしそれも稲妻小僧に盗まれちゃぁ、訳ねーぜ。
案外間抜けな野郎かもしれねーが、用心するのに越したことは無いな。
路地裏に場違いな洋館を見つけた。これが例のホテルらしい。
木製の両開きのドアを開け、フロントらしき台の呼び鈴を鳴らした。すると奥から割烹着を着た中年の女性が出てきた。
「友人を訪ねて来たんだが、クロウリーさんは居るかい?」
なにかいわれる前に黙って小銭を渡すと、素直に部屋番号を教えてくれた。
さてさてクロウリーは二階の部屋っと。
階段を軋ませながら上がり、いわれた部屋の前まで来た。
軽く三回ノックする。
『どうぞ』
直ぐに返事があった。
躊躇わずドアを開けて中に這入る。
その瞬間、微かに魔術の気配を感じた。なんらかの結界を張っていたんだろう。魔術師っていうのもハッタリではないらしい。
部屋はベッドに机にクローゼットだけのこじまんりとしたものだった。
男は、窓際の文机の前に座っていた。
『あ、あのう、友人という割には初めての顔ですが、私になにか用ですか?』
黒髪に茂った黒髭。簡素なシャツにスラックス。思っていたよりかなり若く、二十代だろうか、気弱さ気な様子だが、案外男前だ。
『あなたがクロウリーさん?』
俺は英国英語で訊いた。
『い、いかにも、ぼ、僕はアレイスター・クロウリー、だ』
『やぁやぁ初めまして。私はトキジクといいます。お目にかかれて光栄です。実は山の上の・・・』
実業家に紹介されてやってきたのだと説明した。
『聞けばクロウリーさんは英国由来の珍しい品々をお持ちだとか。それで是非私にも譲っていただけないかとこうしてやってきた次第です』
男前ではあるが、どこか落ち着きがなく不安げな表情で、クロウリーは俺の顔をじっと見つめた。
『はぁ、まぁ、嘘はいっていないみたいですね。だが、だがしかし、巧妙に心を隠している。ち、違いますか?』
術を使って探りを入れてきたか。どうやら間抜けではないらしい。下手な噓は無駄のようだ。
『実をいいますと、私の友人がある指輪を手に入れまして。それがどういった由来なのか調べていたところ、どうやら盗品だということがわかりまして』
『そ、そ、それは違う、違うぞ。指輪はあの屋敷に這入った盗人が、僕から盗んだ物だ。それに、それにだ、あの屋敷の主人に売った物も、指輪も、盗品なんか、じゃ、ない。正当な理由と権利があって、ぼ、僕が、教団から、接収した物だ』
クロウリーは興奮気味にいった。
『教団から?』
『そ、そ、そう、そうさ。黄金の、黄金の夜明け団、ロンドン支部から』
黄金の夜明け団。なるほど、聞いたことあるぞ。
ロンドンやパリで活動してる魔術結社だったよな。
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