第14話 不老不死探偵の助手 其の伍
「ここが横浜か! 初めて来たぜ!」
横浜駅に着いて、思わず興奮してしまった。
「なんだ、初めてなのか」
そんな風に余裕をかましてきた稲妻小僧も、華僑街に来ると様子が違った。
「おお、華僑街! 噂に聞いていた以上に盛り上がっているな!」
稲妻小僧は賑やかな往来を前にして、目を爛々と輝かせている。
「おい、スリはやめとけよ」
「え⁉ あぁ、も、勿論だとも」
こいつ、ちゃんと見張っとかねーとやらかすかもな。
だけど、稲妻小僧じゃなくても、華僑街の活気は尋常じゃない。
「すっげーな! 見たこと無い物ばっかだし、いい匂いはするし!」
建物も、行き交う人々の格好も、異国情緒たっぷりだし、聞こえてくる言葉も違う。まぁ一応いつも見てる玄女は大陸の人間だけど、やっぱり圧倒的な数に囲まれていると全然違うぜ。
「ねぇ、ここに来た目的、忘れてない?」
来る前は街を見たいなんていっていた宇良が一番冷静な態度だった。
「わ、忘れるもんか。なぁ、稲妻小僧」
「そうとも。珍しい大陸の料理を食いに来たのさ」
「それだ! ・・・じゃねーよ。指輪だよ指輪の件だよ!」
「ん? そうだっけ?」
「はぁ」
オレと稲妻小僧のやり取りを聞いていて、宇良が大きな溜息をついた。
「まず、指輪を持っているであろう、春日の師匠を探すんでしょ?」
「うん、そうだ。流石宇良」
「流石宇良君だ」
「まったく、しっかりしてよ二人とも」
ということで、早速オレたちは師匠の行方を追うことにした。
師匠は横浜に居る清から来た術式師のところに行ったと予想して、先ずはそこを探しまわったが、一向に見つからない。
いろんな人にも高名な術式師のことを訊いて歩いた。しかし誰もが知らぬ存ぜぬだった。
そうこうしている内に、日も暮れてきた。
疲れ切ったオレタたちは、取り敢えず茶屋に這入って休憩することにした。
「なぁ、こんなことってあるか?」
オレはテーブルに頭を載せていった。
「ホントにお前の師匠はここに来ているのか?」
稲妻小僧は椅子の背もたれにぐったりと体をあずけていった。
「・・・なんか自信無くなってきた」
もしかしてオレ、師匠に担がれたのか? 横浜に行くっていうのは嘘だったのか?
「ううん、ていうか、その術式師の居場所、意図的に隠されているって考えた方が腑に落ちるね」
「どういうこった?」
オレはテーブルから体を起こして宇良に訊いた。
「一見さんお断りってことかな。ちゃんとした手続きや過程を経ないと辿り着けないって感じで。だいたい僕たちみたいな子供に教えてはくれないのかも」
「子供じゃねーよ。もうチ〇チンにだって毛が生えてんだぜ? なぁ稲妻小僧」
「うんうん」
「まったくデリカシーってもんが無いんだから」
宇良はしかめた顔をちょっと赤らめながら、大陸のお茶を飲んだ。
「でりかしい? ってなんだ? 宇良」
「いったいどこの菓子だ?」
「もういいよ。それより指輪の探索じゃない? もしかしたらもう質屋にでも流れてるかもよ」
「金色の蛇が絡まった指輪。かなり高価そうだからなぁ」
「あの蛇の目に嵌め込まれた宝石がまた美しかった」
稲妻小僧はうっとりとした顔でいった。
「だいたい誰からあの指輪を盗んだんだよ」
オレは稲妻小僧に訊いた。
「ああ、英国から来たとかいう白人の男からだ」
「へぇ、英国から・・・」
その話を聞いて初めて、この茶屋に、華僑街では目立つ白人の団体が居るのに気付いた。
「ねぇ、春日。気付いた?」
隣の宇良がひそひそと語りかけてきた。
「なんかさっきからあの白人たち、こっちを気にしてる風なんだけど」
ああ、丁度オレもそう思ってたところだぜ。
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