第15話  黄金の夜明け団

 山の上の実業家に売り捌いたのは、このアレイスター・クロウリーが黄金の夜明け団のロンドン支部から盗んだ、あるいは接収した物だという。しかし、肝心の指輪は本人から直に稲妻小僧が盗ったらしい。


『あの蛇の指輪は、売らなかったんですか? なにか理由でも?』


 その質問に、クロウリーは直ぐには答えなかった。どこか気まずい様子。


『あ、あれは、その、お気に入りだったのさ』

『他とは違う、特別なもの、だった?』

『そ、そんなんじゃない。ただ、本当に、気に入っていたんだ・・・』


 ふうん、違うな。あれはコイツにとって特別な物だった。あれ程強力な術が施された指輪だ、単なるお気に入りじゃ説明がつかない。


『では、どうしてあなたは、その教団から接収した品々を、こんな辺鄙な東洋の島国の人間なんかに売り払ったんですか? そもそも、教団から接収するのに当たって、正当な理由と権利とはなんだったんです?』

『・・・、何故、そんな質問に、ぼ、僕が答えなくちゃならないんだ?』


 ふむ、どうやら馬鹿ではないらしい。


『だいたい君は何者なんだ?』

『最初から、いっているじゃ、ないか。僕はアレイスター・・・』

『アレイスター・クロウリー。そして魔術師』

『そう。黄金の夜明け団首領、マグレガー・メイザースの愛弟子、アレイスター・クロウリー・アデプタスだ』


 今までの怯えたような雰囲気が一瞬消え、傲慢とも取れる自信に満ちた態度が垣間見えた。

 こいつ、なかなか侮れないな。なにか切っ掛けがあれば大化けするかもな。要注意だ。


『教団の分裂を目論む輩への制裁として、メイザースの名のもとに僕がロンドン支部からあの品々を接収したんだ』

『しかし、真に価値ある物は、どこかに保管している。あるいは、手元に留めた。あの指輪のように』

『さ、さぁ、どうだろうね』

『あの指輪、いったいどれほどの価値がるんです?』

『価値、なんて言葉では計れないほどの物さ。そ、それ、それより。あなたはこんなところに、いて、いいのかい』

『・・・どういう意味だ?』

『あなたも認めるあの特別な指輪には、追手が掛かっているんだ。教団の分裂主義一派のね。もしかしたら今頃、指輪の在りかに迫っているかも・・・』

 クロウリーは、また自信ありげな態度でいった。

『教団の魔術師連中は、案外手強いよ?』


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