第41話 グノーシス・隠された知識
『このソロモンの指輪と呼ばれる代物は、本来ある種の兵器として造られたものなんだよ』
マグナス卿は、二匹の金色の蛇が絡まる指輪を眺めながらいった。
『兵器? クロウリーは願いを叶える指輪とかいってたような』
『まぁ、それは本来の目的が忘れられてから、後付けされた用途だね』
マグナス卿は自分でお茶を注ぎ、一口飲んだ。
俺は話の続きを待った。
『うん、良い香りだ』
俺は辛抱強い、この貴族趣味の余裕を、俺は受け流せる、と自分にいって聞かせた。
『そうだ、なにか食べ物があった方がいいかな?』
『いいから話の続きを』
自分で話を幾つも振っといて、なに一つ進んでねーじゃねーか。絶対ワザとだろ。
『ははは、そうだったね。さて、何処まで話したものか』
マグナス卿は、俺の忍耐の限界を察したようだ。
『冗談はさておき、この指輪はね、別次元の精神体を受肉させ、この物質世界に顕現させるための物なんだ。最近では願いを叶える指輪とか、悪魔を使役する指輪とかいわれているかもしれないが、本来は単純明快、異次元からの精神憑依体を造ること、そして目的は一つ、戦うこと。だからあの天使が戦士であり、悪魔なんだ。呼び方の違いだけだね』
『うん、まぁそこまでは今までの復習と応用みたいなもんで、わかった。疑問なのは、誰が、なんのためにそんなことをしたんすか?』
『いったろ? 大きな戦争があったと。この惑星でも、昔から戦争は絶えず起こってきたよね。それと同じ、ただ範囲が違うだけさ。その戦争は宇宙規模で行われた。幾つもの惑星、恒星、を巻き込み、銀河間で行われた、物質宇宙の覇権を賭けた代理戦争だったんだ』
『代理戦争? いったい誰の』
『勿論、神々さ』
マグナス卿はようやく言えた、というような満足気な笑みを浮かべた。
それとは逆に、俺は混乱の極みだった。
え? なんだって? 神々? この人本気でいってるのか?
しかし悲しいかな、マグナス卿が真面目も真面目、大真面目にいっていることはわかっていた。ただ、信じたくなかっただけだ。
俺の戸惑いと混乱を汲み取って、マグナス卿は話を続けた。
『神々といっても、全知全能で宇宙を創造した神、なんて大それたものではないよ。それでも、人間なんかよりは遥かに強大な精神を持った高次元の存在だ』
『そんな澄ました奴らが、どうしてまた戦争なんて?』
『さあね。蟻が人間の営みを理解出来ると思うかい? しかし強いていうならば、遊びなんじゃないかな。全てが遊戯である。我々にはそう捉える他ない』
疑問が疑問を呼び、答えさえ更なる疑問の入り口になった。
俺がまた疑問を口にしようとすると、マグナス卿はそれを制するように、また語り出した。
『高次元の精神体といえど、この物質界で影響力を発揮するには、一時的であれ物質を纏わなければならない。つまり物質化・受肉だ。そうなれば、物質界の制限を受けるようになるけれど、ここで活動するには仕方のないことだった。そやって精神体は自ら肉を纏い、あるいは都合の良い器を造り、あるいは手足となって働く生物を造り、物質界・アッシャーで征服戦争という遊びを始めた。この指輪は、その一環として造られた、精神体を生物に憑依させる媒介兵器だったんだ』
え、ちょっと付いて行けないんですけど。想像の遥か先をいくお話出てきちゃったよ。もうちょっと現実的なの期待してたんだけど、これもうパンドラの箱開けたようなもんだな。
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