第42話  鍵と門

『さて、ここまででなにか質問はあるかい?』

 マグナス卿は自分の茶碗にお茶を注いだ。

『ふむ、冷めても美味しいな。今度取り寄せようか』


 絶対ワザとだよな。質問が有るとか無いとかの問題じゃないだろ。もう話の全部に疑問だろ。疑問しかねーだろ。高次元とか物質界とか、魔術や呪術の秘中の奥義に係わってくるようなやつだぜ。そんな簡単にぺらぺら喋られてもなぁ。


『いや、なんつーか、その・・・戦争って結局誰が勝った訳?』


 結局一番間抜けな質問をしてしまった。


『さぁ、知らない』


 マグナス卿は溜息をつき、月と星の夜空を仰ぎ見た。


『なっ、知らないって』


 いきなり梯子を外してくるよな、この人。


『本当にわからないんだ。ただ突然、なんの前触れもなく、戦争は終了した。いや、そう思われる。誰が勝者なのか、そもそも勝者など存在するのか。それすらもわからないまま、唐突にすべてが終わったんだよ。きっと、飽きてしまったんだろうね』


 そういい終えたマグナス卿は、底知れない寂寥感を漂わせていた。

 飽きた? そんなことで、宇宙とか想像を超えた規模の戦争を終わらせるのか? いやしかし、この地球の戦争だって、似たり寄ったりか。戦争なんてどっかの誰かの気まぐれで始まり、気まぐれで終わるもんだ。そんな胡乱で下らないものに右往左往させられる者たちにとっちゃ、とんだ迷惑千万な話だぜ。

 ていうか、あれ、んんん? そういうマグナス卿って、いったいなんなんだ? どういう立場でこの話をしていた? 話し振りからして当事者みたいな・・・。


『しかし、私たちが住むこの世界、この星には、ある役割があってね。ここには鍵と門が置かれたんだ。物質が殊更高密度で存在する結束点。広大無辺な宇宙でも、ここはちょっと特殊なのさ』

『は? それはどういう意味なんだ?』

『はい、お話はここでお終い。取り敢えず、この指輪はあの英国人の坊やに預けておいてくれ』


 そういってマグナス卿はソロモンの指輪を指で弾いて寄越した。


『うわっ』


 俺は落とさないように、慌てて指輪を手で受け止めた。

 あっぶねぇな~。こんな危険物を玩具みたいに飛ばすなよ。失くしたらどうすんだ。


『クロウリーに渡していいのか?』

『ええ。彼は奇跡的に賢明な憑依体と共存している。彼らのことを信じましょう』


 そこでマグナス卿は椅子から立ち上がった。


『では、私はここいらでお暇します。宇良のこと、頼みましたよ』

『一緒に戻らないんですか?』

『友人たちとの時間も大切だからね』


 マグナス卿は意味ありげな笑顔を残し、静かに立ち去った。

 あれ。ていうか、物凄く気になるところで話が強制終了されたような。


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