第5話 真実はいつも一つ
『春日君を怒らせてしまったみたいだな』
玄女は糠漬けキュウリを齧りながら近づいてきた。
『ふざけんな。あんなもん、怒らせた内に入らねーよ。だいたい、術覚えて、今まで以上に俺の仕事に首突っ込んできたら危ねーだろ。あいつはこっちの危険さをわかってねーのさ。今まで通り、助手でじゅーぶん』
『春日君は「そういうものではない」といっていなかったか? 正に、なにもわかってないのは君の方だよ』
『はぁ? それじゃおまえは春日の気持ちがわかるっていうのかよ』
玄女は糠漬けキュウリを握りしめ、自信満々の顔でいってのける。
『ああわかるとも。ズバリ、春日君はトキジク、君と結婚したいんだよ!』
余りに意外過ぎて頭が真っ白になっている俺に、更に玄女は付け加えた。
『もしくは婚約だな』
こいつなにいってんだ? さっぱり理解出来ねーよ。あやうくブランデーグラスを落とすところだった。
『おまえ馬鹿じゃねーの? 俺と春日が結婚してどうすんだよ』
『その指輪を物欲しそうに見ていたのが証拠だ!』
いや、真実はいつも一つ、みたいにいわれても。
『くだらねぇこといてねーで、おまえもさっさと寝ろ』
俺は憮然として椅子に寄り掛かり、金の指輪を摘まんで眺めた。
玄女はやれやれといった感じで溜息をついた。
『しかし、いったいその指輪はどうしたんだ? かなりの代物に見える』
『ああ、コレか? 拾ったんだよ』
『そんな物が落ちているとは、由々しき事態だな』
『俺も同意見だ。これはな、稲妻小僧とかいう、世間を騒がしてる泥棒が落としていったんだと思ってる』
『イナズマコゾウ?』
玄女は眉をひそめる。
『知らねーのか? 新聞にも載ってるぜ? 稲妻のように素早く動く神出鬼没の正義の義賊ってな。恐らく縮地法や、お前の禹歩と似たような効果を持つ異能持ちだろう』
『その稲妻小僧が、指輪を?』
『ああ。多分盗品だ。明日、横浜に行くから、ついでに李翁に見てもらおうと思ってる。あの爺さんこういった呪具にも詳しいから。お前も行くか?』
李爺さんは大陸出身の術式師だ。同じ大陸から来た玄女と気が合うらしく、とりあえず誘ってみた。
『わかった、付いて行こう』
玄女は糠漬けキュウリの残りを食べ尽くし、二階へと戻っていった。
李爺さんのところで、春日用の術式、適当に仕入れてくるか。
爺さんだったら、術式の教え方のコツもなんか知ってるだろう。
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