第6話  不老不死探偵の助手 其の壱

 朝起きたら、師匠と玄女は出かけた後だった。

 え、なんで?

 なんで置いてきぼり? なんで独り留守番?

 昨夜の流れで、どうやったらこういう仕打ちになるんだ?

“すまなかった春日! 俺が悪かった。よし今日から術式の特訓だ! 俺の為に強くなってくれ” って泣きながら訴えてくるんじゃねーの? それが独りで店番してろって? そして二人は横浜に⁉

 ふざけんな!


「まったく、オレのことなんだと思ってんのなかね。ていうか、オレのこと、どう思ってんだよ此畜生」


 ずっと文句をいいながら、オレは洗面台で顔を洗い、朝飯の支度をした。

 昨夜の飯を粥にして、漬物、あとメザシを二匹焼いた。

 さっそく食べ始めた頃に、表の引き戸を叩く音がした。

 なんだよ、今日は頭来たから店開けないつもりだったのに。


「やぁ、春日」


 戸を叩いていたのは、同年代の数少ない友達、桃雛宇良ももひなうらだった。


「なんだ、宇良か。どうした?」

「どうしたじゃないよ。今日は神保町の古書店街を案内してくれる約束だったろ?」


 オレが、いけねぇ忘れてた、っていう顔を見て 宇良は大きな溜息をついた。


「やっぱり忘れてた。邪魔するよ」


 そいって店の中に、ずかずかと這入り込んだ。

 少し大きめのハンチング帽に真っ白な半袖シャツに紺色の半ズボン、靴下に革靴という格好。


「なにジロジロ見てるんだよ」


 オレの視線に気づいて宇良がいった。


「相変わらず洋装が似合ってるな」

「君こそ、和装が似合ってるじゃないか」


 宇良はちょっとはにかみながら言い返してきた。

 師匠の仕事を手伝っているときに、偶然宇良と出会った。コイツが自分の家の地下牢に閉じ込められているのを、オレが助け出したんだ。今では時々会って遊びにいったりしている。

 今日は本の虫で滅茶苦茶勉強好きの宇良に、古書店街を案内する約束をしていたのに、すっかり忘れていた。それもこれもバカ師匠のせいだ。


「え、まだ朝食の途中だったの?」


 奥の方から宇良の声が聞こえた。


「お前んちみたいにメイドさんたちが朝飯準備してくれる訳じゃねーの、ココは」


 まったく、これだからお坊ちゃんは。

 両親は殺され、親戚に虐待されていたとはいえ、宇良の実家は華族だった。

 しかもその後引き取ってくれたのは、皇国に住み着いてるイギリス貴族だときてる。

 要するに金持ちなのだ。


「ここでも雇えばいいのに」


 しれっとそんなことをいってきた。

 自然体で金持ちなんだな。


「茶でも飲むか?」

「いらない。それより残りの朝食、早く食べちゃいなよ」

「おう。じゃあ、食ったら行こうぜ」


 急いで食べかけの粥をかき込んでいると、再び店の表を叩く音がした。

 なんだ? 今度は客か?


「いいよ。僕が出る。定休日だっていえばいいんでしょ?」


 宇良はそういって、オレの代わりに店の引き戸を開けに行った。


「すみません、今日は定休日だそうで・・・って、え?」

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