第7話 大きなお世話
横浜行きの汽車の席で、玄女は弁当として買った塩むすびを頬張りながら、いった。
『どうせなら、春日君に弁当を作ってもらえば良かったのに』
『朝からアイツを起こす必要もないだろ』
『フッ、優しいんだな、トキジクは』
『テメェ、口に米粒付けながら気取ったこといってんじゃねーよ』
『夜中まで自分が帰ってくるのを待っていてくれて夜食まで作ってくれたのに、些細なことで喧嘩して怒らせてしまったから、罪滅ぼしに春日君の為に訓練用の術式を買いに行くけど、そのことを本人にバレないように黙って家を出てきたトキジクを、優しいといってなにが悪い?』
『・・・、いや、そんな考察してるお前が一番怖いよ』
まったく、なんで玄女は、隙あらばオレと春日をくっ付けようとするんだ?
『もう少し、自分気持ちを素直に伝えた方がいいと思うぞ』
『余計なお世話だ。ほっとけ』
俺はいつだって素直で正直だよ。ただ、春日の奴はまだ子供だ。物事を自分で判断出来るようになるまでは、年長者として俺が守ってやらねーとな。
横浜駅に着いて、久し振りの潮風の匂いを楽しみながら、華僑街へ。二階建ての建物が両脇に連なる、看板と人で賑やかな大通りを歩き、途中脇道に入り、裏路地を進んだ。
暗く狭いレンガ壁の裏道をしばらく歩き、ようやく目的地の楼閣がある門の前に来た。
相変わらず大陸情緒たっぷりだな。
俺は木製の重厚な門扉を押し開け、中に這入った。
暗い楼閣の下を抜け、中庭に出れば、昼の陽射しが降り注ぎ、眩しい。
秋海棠や朝顔の花が咲く庭を抜け、奥の母屋へと向かった。
開けっ放しの戸から中を覗くと、薄暗い大部屋の片隅で、うずたかく積まれた書物に半ば埋もれ、なにやら机に向かって作業をしている老人を見つけた。
『李さん、邪魔するぜ』
俺は老人に声を掛けた。
『ああ? その声は非時か?』
李さんは顔も上げずに尋ねた。
『そうだ』
『おまえはいつも突然やってくるなぁ。今手が離せないから奥で待っちょれ』
俺は「へいへい」と返事して奥の部屋で玄女と待つことにした。
今回は孫の李光ではなく、使用人の女性が焼売と米麵と海老雲吞のスープを出してくれた。
『有り難い。丁度腹が減っていたのだ』
玄女は早速食べ始めた。
『常に腹空かしてるだろうが』
あきれながら、俺も食べる。
給仕された物をすっかり食べ終え、烏龍茶で寛いでいると、ようやく李翁が部屋に這入ってきた。
『やれやれ、仕事に没頭してるっちゅうのに、非時、おまえさんはまた厄介ごとを持ってきたのか?』
『失礼だな。俺はいつも客として来てるつもりだが? まぁ、ついでにちょっと見てもらいたい物を持ってきてるんだけどな』
俺はそういって、拾った金の指輪を取り出した。
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