第8話  指輪をめぐる冒険

 李雲リーユン爺さんは金の指輪を受け取り、矯めつ眇めつ観察し、時折唸り声をあげたりした。

 爺さんは俺の知る限り指折りの術式師だ。術師は術式を使う者であり、術式師は術式を創る者だ。だから術式師は様々な術式に精通している。この指輪になんらかの術式が施されているのなら、鑑定には持って来いの人材だ。


『ふむ、確かに強い力を感じるが、既に術が施されている状態のようだな。その効果を確かめるには、施された術式を詳らかにする必要がある。それにはちと時間が必要だぞ?』

『わかった。頼む』

『それには相応のマニーも必要になってくるぞ?』


 李爺さんがニヤリと笑う。


『わかってるよ。支払いは結果が出てからだ』

『よろしくな』

『余計な経費かさむなよ。で、時間はどれ位かかる?』

『うーん、二、三日ってとこかの』

『じゃあ、二日後にまた来る』

『まったく、年寄りは労わるもんじゃぞ?』

『俺だって暇じゃねーの。ちゃんと金は払うよ』

『ま、仕方なかろう』


 商談成立だな。

 しかしどうも嫌な予感がする。今回の件、時間が惜しい。


『玄女はどうする? 一旦東京に戻るか?』


 見ると玄女は、いつの間にか出された月餅を食べていた。


『トキジクは戻らないのか?』


 こいつ、常になんか食ってるなぁ。いつものことだけど。


『俺は鎌倉に野暮用があるんだ。で、明後日ここに戻ってくる』

『ふむ、そうかぁ』


 玄女が答える。


『なら玄女さんは、ここに滞在していればいい』

『良いのですか? 李大人』

『大歓迎だ』

『おいおい俺とは随分待遇が違うな』

『気のせいじゃろ』


 李爺さんはそういってわざとらしく笑った。


『はいはい、そうですか。じゃ、指輪のこと、頼んだぜ』


 俺は玄女を残し、鎌倉行きの汽車に乗るために、駅へと向かった。




 さて、俺がどうして鎌倉に行くかというと、依頼された仕事の失敗を、依頼主に報告するためだ。

 そう、稲妻小僧の捕縛の件だ。

 まぁ、とっ捕まえるまでとことんやってもいいんだが、なんかやる気失せちまったんだよなぁ。あんなガキに本気になってもしゃーないっていうか。

 依頼主は鎌倉の山の上に住んでる実業家だ。どうやらその家に盗みに入られたらしい。契約不履行で金を返せといわれたらそれまでだが、取り敢えず有ること無いこと並べ立てて、適当に有耶無耶にしてやるつもりだ。

 どうせ金なんて有り余ってるような輩だ。どうとでもなるだろう。

 それに、もしかしたらあの指輪の情報が手に入るかもしれないしな。

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