第11話 不老不死探偵の助手 其の四
オレたちは意気揚々と新橋の駅まで歩いた。
いやぁ、しかし本物の稲妻小僧に出会えるとは!
汽車に乗ってっる間にいろいろ話訊こうかな。
「なにニヤニヤしてるの?」
歩きながら不審の目で宇良はオレを見ている。
「え? なんかさぁ、汽車に乗るのなんて久し振りだし、それも大人も居ないのに、オレたちだけで? ワクワクするじゃねーか」
「要するに子供だけでってこと?」
「オレ等はもう子供じゃねーだろ。それに、あのバカ師匠から指輪をブン取るとか、楽しみ過ぎるぜ」
「なんでブン取るのさ。相手は君の師匠だろ? 普通に返してもらえばいいじゃないか。持ち主だって居る訳だし」
「いいや、それじゃ駄目だね。あのバカ師匠から掠め取って、オレの、いやオレたちの力を見せつけないとな! なぁ稲妻小僧! やっぱり獲物は奪い取らないとな!」
「ふん、オイラのスリ技は天下一品だからな!」
「あ、そう」
宇良は興味無さそうにいった。
「なんだよ宇良、白けた顔して」
「横浜まで行くのはいいとして、あんまり面倒事は御免なんだよなぁ。普通に港見物とか買い物とかしたいんだけど」
「全部終わったらしようぜ、な!」
ようやく駅に着いたが、そこで切符を買わなきゃならないことに気付いた。
「あ、そういやオレ、持ち合わせ無いんだった」
「確かに、なにせ急だったので、オイラも・・・」
稲妻小僧も流石に三人分の汽車賃は持ち合わせてなかったらしい。
「はぁ、そんなことだろうと思ったよ」
宇良が大きな溜息をついた。
「宇良、随分遅かったではないか」
突然そんな声が聞こえた。
全員で振り向くと、そこには真っ白なシャツに黒のネクタイ、黒いズボンに黒い革靴姿の、白人男性が立っていた。
駅の人混みでも恐ろしく目立つ、長身に病的に真白な肌、対照的に漆黒の髪に目、そして鋭利な刀剣のような美しさ。
「伯爵自ら来て下さるとは思いませんでした! てっきりカールさんが来るものとばかり」
宇良が嬉しそうにその男性に近づいた。
「珍しく宇良が頼み事をしてきたのでね、面白そうだからつい来てしまったよ」
「春日はもう知ってると思うけど、会うのは初めてだよね。僕の後見人の、マグナス伯爵です」
「御機嫌よう、トキジクのところの春日君。そして君が稲妻小僧君だね、宜しく」
こ、この人が噂のマグナス卿か! 警視庁の雨夜っていう人とはまた別の気品を感じるぜ。しかし師匠から聞いていたのとはちょっと違うかな。常人離れしてる雰囲気は納得だけど、もっと恐ろしくて化け物じみた感じかと思ったら、そうでもないや。
まったく、師匠はいつも大袈裟なんだよな。
「さて、君たちに切符を用意させてもらったよ。これで良き旅を満喫してきたまえ」
伯爵は、宇良に汽車の切符を渡した。
そして、オレと稲妻小僧に向かって囁いた。
「君たち、宇良のことをしっかり頼んだよ」
途端に体中を痺れるような感覚が駆け巡った。
笑っているはずのその両目の視線が、まるで剣のように脳天に突き刺さる。
囁き声が蛭のように体に吸い付く。
辺りは一瞬暗くなり、突然底無しの沼に引き摺り込まれたような胸苦しさに襲われた。
「ま、死ぬことはないだろう」
伯爵は軽くウィンクをしてみせ、待たせていたらしい四頭立ての馬車へ乗り込んだ。
「い、今のは、なんだったんだ・・・?」
そう呟いた隣の稲妻小僧は、目を見開き青ざめた顔で硬直していた。
良かった、オレだけじゃなかった。
今見たのは、感じたのは、現実だったんだ。
「あと少しアレだったら、オイラ全力でここから逃げ出してたよ」
「う、うん・・・」
オレも、全力で拒絶していただろう。
とんでもく恐ろしい存在だよ、マグナス伯爵は。小便ちびりそうになったのは内緒にしておく。
「どうしたんだい二人とも、間抜けな顔して。直ぐ汽車に乗るよ」
気付かなかったのか、もう慣れ切っているのか、宇良は平気な顔で。駅の改札へ促した。
「なぁ、宇良。おまえいつの間に伯爵に連絡付けたんだ?」
「ああ、なにか急な用事があるときは、直ぐに伝えられる手段を持たせてもらっているんだ」
「へぇ」
お、おっかねぇ! なにそれ。
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