第10話  不老不死探偵の助手 其の参

「実はさ、落とし物を探してるんだよね」


 密かに憧れていた稲妻小僧が、今ここに居る!

 オレはワクワクを抑えられない。


「落とし物? でも何故この店に?」


 色めき立っているオレに任せられないといわんばかりに、宇良が会話の主導権を握る。


「それはわかりきっていることじゃないか。ここは骨董屋だろ? 拾い物も売りに来るには持って来いだ」

「しかし、骨董屋なら他に幾らでもあるじゃないか」

「ふむ、それは・・・。ま、もういいか」

 不意に稲妻小僧は話すのを止め、諦めの笑みを浮かべた。

「仕方がない、本当の話をしよう。実は昨夜仕事中にある人物に見咎められてね。しかもその直後には警官にも見つかってしまい、捕まりそうなところを、何故か最初の人物がオイラを助けてくれたんだ。ま、オイラは焦ってそのごたごたの中、逃げ出してしまったのだけど、その時、大切な物を落としてしまったらしいんだ。直ぐに現場に戻って探しても見つからなかった。それで、もしかして拾われたのでは、と思って周囲を捜索してみたところ、先ほどの人物が歩いているじゃないか。そっと後を付けてみればこの建物に這入っていった。だからここに来たってわけさ。最初はオイラを捕まえようとしてた探偵だっていってたし、忍び込んでこっそり取り返してもよかったんだけど、一応助けてもらった手前、日を改めて訪れてみたんだが、探偵さんはいるかい? 出来ればお礼もいいたいし、見たところ下男しかいないようだけど」

「残念ながら僕は客の方。下男か彼だ」


 そういって宇良はオレを指差した。


「誰が下男だ。オレは、この店の番頭、そして不老不死探偵の助手だ!」

「なんと、あの探偵は不老不死なのか? 素敵じゃないか」


 稲妻小僧は感嘆の声を上げた。

 ん? なんだこの展開は。どういう状況なんだ?


「だいたい、落とし物ってなんでぃ」


 オレは訊いた。


「ふむ、知っているかな。金色の蛇の指輪なんだが」

「あっ」


 オレは思わず声漏らしてしまった。

 昨夜、師匠が見ていた危険な指輪のことじゃねーか。


「なんだい春日、君、知っているのかい?」


 宇良がやれやれといった感じでいった。


「ああ、確かに昨夜見た。しかし、もうここにはねーよ。ウチのバカ師匠が横浜に持って行っちまった」

「横浜に⁉」

「残念だったな」

「ならば皆で行くぞ、いざ、横浜に‼」


 なんでそうなる。


「いやいやいや、それは・・・」


 といいかけて、オレは言葉を止める。待てよ、もしかしてあのバカ師匠に一泡吹かせられるんじゃないのか?


「ふうん、なんだか面白そうだね」


 案外宇良も乗り気のようだ。

 オレたちで横浜まで行って、そこで師匠から指輪を取り返すことが出来たら、絶対オレのこと見直すと思うんだよね。“春日ぁ凄いじゃないか。俺から指輪を奪うなんて。誤解してた、おまえはもう一人前だ!”って感じになるんじゃないか⁉


「よし、オレたちだけで横浜に行こうぜ! そして指輪奪還だ‼」


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