第37話  残酷な天使

「オイラが止めてやる」


 稲妻小僧がいった。


「バカ、止めろ!」


 あの稲妻小僧が動き出すよりも早く、銀色天使は右脚を光線で貫いた。


「うぎゃ」


 脚を抑えてうずくまる稲妻小僧。

 すかさず宇良が稲妻小僧の傷口に手を当てて治癒を始めた。


『やはり、ここは私が』


 疲弊していた玄女が顔を上げた。


『だから止めろ!』


 俺は心臓と肺の傷を再生させながら、なんとか叫んだ。

 玄女はもうフラフラじゃねーか。大人しくしてろよ。


「玄女、頼むから動くなよ!」春日が叫んだ「オレが全力で拒絶してやるから!」


 そこへ銀色天使が近寄って来て、春日に手を伸ばしてきた。


「絶対ぇおまえを拒絶する、絶対におまえを拒絶する・・・」


 春日が呪詛のように唱えながら睨みつける。

 銀色天使の手が、春日の手前で止まった。

 春日の凄まじい拒絶と銀色天使の力が拮抗し、両者の間の空間が歪んで蜃気楼のように揺らいでいる。

 しかし防いでいるように見えても、僅かずつだが、銀色天使の手が、春日の方に近づいてきていた。

 クソ、このままじゃジリ貧だ。左目と脳の回復が六割。それでもなんとか春日に加勢しなきゃだ。

 ここでやらなきゃ、みんな、死ぬ。

 しかし、なにをすれば。

 不意に、銀色天使と春日の見えない攻防の間に、人影が割って入ってきた。

 宇良?


「う、宇良ぁ! 邪魔だ、どけよ‼」


 春日が必死で叫んだ。

 今にも春日の頭を鷲掴みにしようと伸ばされていた銀色天使の腕に、宇良はそっと自分の手を添えた。


「バカ! なにしてんだ宇良‼ 頼むからどいてくれ‼」


 最早泣きそうな声で春日が懇願の声を上げる。

 銀色天使は相変わらず不気味なくらい無表情のままだが、どこか興味深そうに宇良の行動を目で追っていた。


「僕の異能は、生命力を操るもの。今まではそれを癒しに使ってきだけど、初めて逆の作用を試そうという気持ちになったよ」


 逆の作用?

 宇良が触れていた銀色天使の手首が、光を失い、暗い霞に包まれたと思ったら、ボトリと音を立てて地面に落ちた。

 これは、マグナス卿のエナジードレインと似ているが、あれは生命力を吸い取るもの、対して宇良が今やったのは、本来の生命力を増大させる異能を反転させて、減衰、喪失させる作用だ。


 手首を失った銀色天使は大きく目を見開き、ここにきて初めて表情の変化を見せた。

 地面に落ちた手が、光を失い、灰色に変わっていく。その指に嵌められた指輪だけが、金色に輝いていた。


「宇良、離れろ!」


 春日が叫んだ。

 宇良目がけて振り下ろすつもりなのか、銀色天使は右手を高らかと構えた。


「クソっ、オレがっ」


 春日は間に割って入ろうと立ち上がり、俺も銃口を向けた。

 しかし、間に合わない。刃物のような銀色の手刀は、残酷にも振り下ろされた。



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