第36話  戦略的撤退

 あんな攻撃、避けられる気がしねぇ。

 しかし銀色天使から放たれた光線は、立ち尽くした俺に当たることはなかった。

 俺の前にクロウリーが立ちはだかったからだ。


『お、おまえ』


 あの光線を防いだのか?


『アンタは死なないかもしれないが、他の皆は違う。あの者たちを逃がす責任をまっとうしろ』


 クロウリーは春日たちを示していった。

 へっ、この俺に説教垂れる気か?


『しかしおまえだけじゃ』

『さっきいったろ? 私は以前指輪を嵌めたことがあると』

『そういやぁ・・・いってたなぁ』

『私は異界の精神体と同居しているのだ』

『はぁ? てことは、おまえは悪魔だか天使だかなんかだっていうのか?』

 だから二重人格みたいな様子だったのか。合点がいったぜ。しかし指輪の後遺症とかなんとかいってたけど、指輪無しの状態でもその影響は続くのか?


『いいから、早く行け!』


 確かに、クロウリーがあの銀天使と同じような能力があるなら、こいつに任せることが一番可能性が高いのかもしれない。


『少しの間、頼む!』


 俺は最大出力で左目の傷を癒しながら、春日たちのところへ走った。

 すぐ戻って来っからよ。それまで持ち堪えてくれ。


「春日ぁ! 逃げるぞ!」


 逃げるったって何処へ? あんな化け物天使から逃げられるのか?

 正直俺にもわからねぇ。ただここは一旦時間を稼ぐしかない。生きながらえれば、なんとか道が開けるかもしれない。

 まったく、奇跡に縋るようになったらお終いだな。

 ずっと警戒して身構えている春日の背後に、稲妻小僧と宇良と玄女が居た。

 俺はそんな春日の襟首を引っ掴み、回れ右をさせ、背中を押した。


「し、師匠、けど! 逃げるって!?」

「つべこべいわずに早っ・・・」


 いい終わらない内に、左胸に衝撃が走った。

 例の光線が、俺の心臓を背後から貫いたんだ。


「師匠‼」


 叫ぶ春日。

 溢れる鮮血。

 俺は咄嗟に振り返る。そこには、地面に倒れ伏しているクロウリーと、空中に浮きながら、こちらに指先を向けている銀色天使があった。

 クロウリーの側の地面には、大量に血が流れ出ていた。

 嘘だろう、あのクロウリーを瞬殺かよ。



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