第27話  不老不死探偵の助手 其の拾参

 土煙が晴れ、地面に膝を付いてしゃがみ込む玄女と、平然と佇む布頭男の姿が見えてきた。


『まさかアレを完全に防ぎ切るとは、実力を見誤ったかな』


 玄女はそういって立ち上がった。


『いや、決して見誤ってはおらんよ。先ほどまでであれば、こやつも大きなダメージを負っていたろう。しかし今は私がここに居る。先ほどまでとは違う』


 玄女は不思議そうな顔をした後にいった。


『言葉が通じるのか? というかお前の言葉がわかるぞ』

『ふん、だからいっておるだろう。私はもう別の存在だ。この体の持ち主だった者とは一緒にしないで欲しい』

『まさか・・・、確かに、そのようだな』


 玄女は値踏み、あるいは探るように布巻男を見た後に呟いた。


「いったいなにがあったんだよ⁉」


 オレは思わず叫んじまった。


「恐らく、指輪だよ。春日君」


 玄女は布巻男から目を逸らさずにいった。

 指輪⁉

 あ、あの野郎指輪してる。あれは昨日見た金の指輪だ!


『その指輪の作用か。別人にでもなれるのかい? さっきまでとはまるで違う』

『ああそうだよ。さて、このまま続けるかな? 私としてはこうして久しぶりにこの世界に来れたんだ。存分に楽しみたいので、もうここに留まる理由が無いのだが』


 周囲にはまた野次馬が集まってきていた。


『まぁ、あんたが余所に行きたいっていうんなら、こっちにも止める理由がないな』


 今では玄女の言葉も理解できた。

 どうやら布巻男の仕業らしい。


「おい玄女、逃がしちまっていいのかよ。指輪はどうすんだ?」


 オレは玄女に近寄って耳打ちした。


『春日君、指輪の所為らしいんだが、どうやらあの男はさっき迄とは別物だ。恐らく私でも歯が立たない。もし戦えば大きな被害が出るだろう』


 そうなのか。

確かに、ここには無関係の人たちも沢山居る。更に大規模な戦いが起これば・・・。


『メタモン様! どうなされたのですか!』仲間である口髭魔術師が布頭男に詰め寄った『我々の復讐はどうしてくれるんですか⁉ だいたいその指輪は嵌めてはいけないと・・・』


 口髭男の言葉が不意に途切れる。

 頭がゆっくりと傾き、終いに切断された首から地面に落ちた。知飛沫が噴水のように吹き上がる。


「なっ」

『詰まらんことをいう奴だ』


 布巻男は心底下らないといった顔で落ちた首を見た。

 周囲に集まっていた野次馬から悲鳴が上がり、逃げ出す者も出てきた。しかし怖いもの見たさで留まる者もまだ居る。


『さて、異存が無いようなら私はこの場を離れよう』


 そういって俺たちに背を向ける。

 こいつをこのまま立ち去らせていいのか? 野放しにしていいのか? どういう原理か知らないが、さっきまでとは別人になったとはいえ、仲間をトンボの首みたいに刎ねる奴だぞ? 


「げ、玄女」


 オレは玄女に問い掛ける。悔しいがオレにはどう仕様も無い。

 当の玄女も迷っているようだった。明らかに格上相手。止めるか、放って置くか。


「春日君、私は・・・」


 布巻男は歩み出し、遠ざかろうとしていた。


「いたいた! こんなところに居やがった!」


 突然上の方から覚えのある声が聞こえてきた。

 ハッとして見上げよとしたら、目の前に二人の人間が降り立った。

 トキジク師匠と、長い髪を後ろで結い、端正な顔立ちの異国の男。

 誰だよあいつ。師匠と二人して飛行術でやってきたらしい。なんとなく腹が立つ。


『おい、こいつだろ? お前がいってた追手っていうのは』


 師匠がヤケに気安く異国男に話しかけた。


『あ、ああ、そうだ。だけど、こいつは・・・』

『おい、待てよオッサン』

『いやいやいや、トキジク、あいつは』


 玄女が慌てて師匠を止めようとする。


『なんだい、私に用があるのかい?』


 とうとう別人と化した布巻男が歩みを止め、振り返った。

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