第28話  ソロモンの指輪    

『なんだい、私に用があるのかい?』


 呼びかけに答えて、クロウリーのいうコプト魔術の使い手が振り返った。


『あんたが指輪を探してる何とかメタモンって奴か?』


 俺は初手からピースメーカーの銃口を向けて訊いた。


『かつてはメタモンだった存在だ』


 頭にターバンを巻いたコプト魔術師がいった。


『あ? 禅寺で修行でも始めたのか?』

『ちょちょちょっと、待ってトキジク。なにか変だ、おかしい』


 クロウリーが動揺した口調でいった。


『なんだどうした』

『あっ、かか、彼は、指輪をしている!』


 興奮気味にクロウリーはいった。

 あ、本当だ。この馬鹿、あの指輪嵌めちゃったんだ。


『そういやお前も指輪嵌めたことあるっていってたよな。どうなるんだ?』

『それ、は・・・』

『どうやら別人、いや別物になるらしい』


 いきなり玄女が側に来て、話に割って入ってきた。

 なんだ、聞いてたのかよ。


『そういうことなのか?』


 俺はクロウリーに問い質した。


『そう。あの指輪を嵌めると何かが降りてくる』

『降りてくる? イタコみたいな?』

『イタコ? よくわからないけど、とにかく別の意識体に憑依されるんだ』

『乗っ取られるってことか』

『しかもその意識体は、指輪を嵌めた人間の想いを代行する』

『代行する?』

『つまり・・・』


『つまり願いを叶えるのさ』

 俺たちの話を聞いていた元コプト魔術師が、したり顔でいった。


 ソロモンの指輪。悪魔を従え、願いを成就させるという。これが正体なのか。さしずめ、こいつの中に居るのは“悪魔”ってことになるのか?


『なんだ、単なるランプの精みたいなヤツかよ。胡散臭ぇな』

『内輪の相談はそれで終わりなら、そろそろ私の自由にしても?』


 憑依されているという元コプト魔術師がいった。


『まぁ基本的に俺は自由を尊重する人間なのよ。自由万歳、人はどこにだって好きなところに行ける。たださぁ、アンタは、その手に入れた自由でもって、いったいなにをする気なんだ? その体の元持ち主の願いは?』


 俺は再び銃口を向けた。

 返答次第によっちゃ、その自由を制限しなくちゃならねーかもな。


『聞かない方がよかったと思うかもしれないよ?』

『今すぐ口を利けなくしてやろうか?』

『・・・比類なき強さ、そして支配』


 元コプト魔術師は宣言するようにいった。


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