第29話  強欲

『願いは、比類なき強さ、そして支配』


 元コプト魔術師は笑った。

 こいつはヤベェな。どうする、撃っちまうか? まぁ銃弾如きでどうこう出来る相手とは思えないが。


「おい、春日! 居るんだろ? ちょっと来てくれ」


 元コプト魔術師から銃口を外さずに、俺は声を上げた。


「は、はい!」


 いきなり呼ばれて戸惑った様子で、春日が側に駆け寄ってきた。


「な、なんすか。ていうかオレが居るの知ってたんすか」


 ちょっと前から上空で状況を観察してたからな。


「なんでもお見通しだ」俺は春日の頭に手を置いた「お前とその友達で、周辺の住人を避難させ、守れ。これからどでかい戦闘になる。任せた」


 春日は無言のまま突っ立っていた。


「どうした? 返事は」

「う、うっす‼」


 返事をするなり春日は勢い良く走り去った。

 期待してるぜ、俺の助手。


『どうやらやる気のようだが、本気か?』

『本気も本気、大真面目だぜ。今ならその指輪、大負けしてただで貰ってやるよ』

『そこまでだ! 貴様ら‼』


 突然の怒声。

 屋根の上に三人、向こう側に一人、か。


『余所者が随分好き勝手やらかしてくれてるじゃねーか、いったいどう落とし前つけてくれるんだ⁉』


 元コプト魔術師メタモンの背後に現れた男が恫喝の声を上げた。


『なんなんだいったい』


 動揺したクロウリーがいった。


『おそらく、この街の自警団だ。どうやら四人とも術師のようだが・・・』

『お前たちは下がっていろ! ここは私たちで収める!』


 真っ先に玄女が叫んだ。同郷のよしみってやつか?


『ふざけるな! これだけ被害を出しておいて何をいう。こいつはオレたちが片付ける。貴様らは邪魔するな!』


 華僑街の自警団術師がそういい終えた直後、その首が落ちた。あっさりと。

 化け物め、いわんこっちゃない。

 思っていた以上に動きが速い。

 自警団術師の残り三人は驚愕で固まっている。


『玄女、クロウリー、やるぞ。出し惜しみ無しだ』


 俺は両隣の二人にいった。

 全然気乗りしねーが、こうなったらやるしかねーだろ。こんな奴野放しにしたら、余所でなにするかわかったもんじゃねー。責任なんて言葉は大嫌ぇだが、ここまで係わった以上、見逃したら明日からの酒が不味くなるってもんだ。


『やっぱり来るのかい?』


 元メタモンがいった。


『ああ、俺は探偵ぜ? 探偵ってのは、この世で一番強欲な生き物なんだよ。未知なるものは許せないし、気に入ったものは必ず手に入れる』

『それはもう強盗だろ』

『盗賊では?』


 玄女とクロウリーは同時にツッコミを入れてきた。

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