第24話  執着

 月明かりの下飛翔し続け、ようやく横浜と華僑街の灯りが見えてきた。

 さてそろそろか。李爺さんの屋敷は結界が張ってある。簡単なものだが、鍵となる呪文を唱えないと見えないようになってる。


『さて、そろそろ目的地だぞ』


 俺はクロウリーに並び、手を握った。


『ちょっ、ちょっと、ナニするんですかいきなり⁉』

『なにするって、接触しねーと目的地が見えねーんだよ』

『だからって、いきなり手を握るなんて・・・』


 クロウリーはまたぶつくさ文句をいっている。まったく面倒臭ぇ奴だなぁ。


『ほら、あそこだ・・・って』

『あれ? なんだか、様子が・・・』


 李爺さんの屋敷のある場所から、煙が上がっている。


『ちっ、先に行く‼』


 俺はクロウリーを置き去りにして、全速力で屋敷に向かった。

 既に指輪追跡者の手が及んでいたのか?

 屋敷の中庭に降り立つ。


『爺さん、何処だ⁉』


 火の手が上がっているのは幸い作業場や書庫ではないらしい。あそこには貴重な術式や資料があるからな、失われたら大事だ。


『儂は無事じゃ』


 煙が出ている部屋から、李爺さんがよたよたと出てきた。

 肌や衣服が煤で汚れている。


『大丈夫かよ。なにがあった⁉』

『突然異国の男が押しかけてきて、指輪を寄越せと迫ってきおった。当然断ったんだが揉めてな、残念ながら持っていかれたよ。ありゃ、相当な手練れだぞ? 儂の財産を守るので手一杯じゃった』


 はっきりいって李爺さんは、最高の術式製作者だ。それはそこらの二流術師なんかよりも呪術の腕が立つということだ。その爺さんを圧倒するとは、おそらく相手はクロウリーのいうコプト魔術の使い手だろう。


『で? 爺さん、相手は?』

『いや、わからん』

『僕ならわかるよ』


 背後に降り立ったクロウリーがいった。


『指輪には、追跡術をかけてありますから』

『何処にいった?』

『この方向は、恐らく街の方』

『・・・、へぇ。あっそう』

『あれ、追わないんですか?』

『いや、なんかよく考えたら、もう指輪は取られちまったんだろ? まぁある意味持ち主の元に戻ったことにもなるし、爺さんは損な役回りだったけど、追う必要無いかなぁってさ』

『ええ⁉ いきなりテンション下げないで下さいよ‼ 大体あの指輪は僕のなんですから‼』

『お前だって勝手に取ってきたんだろ?』

『いやしかし、正当性は僕に有ります! それにパウロス・メタモンは危険な奴なんです。あいつがソロモンの指輪を手に入れたとなれば、きっと私利私欲に使いますよ‼』

『ふぅん、なんか面倒臭ぇなぁ。もう金になんねぇしなぁ』

『もし指輪を取り戻してくれたなら、それ相応の謝礼は出しますよ』

『ホントかぁ?』

 

 随分と指輪にご執心だな。憑りつかれてんのか?


『まだ教団の宝物庫から接収した物が幾つかありますし、運営資金もせしめてきましたから』


 こいつ、結構やらかしてんじゃねぇの? ま、いいや。金が貰えるなら。


『先にそれをいえ。なら行くぞ!』


 俺は再び飛び立とうとした。


『華僑街には玄女さんが行っとる。合流できるかもしれんぞ』


 李爺さんがいった。

 なに? 玄女が独りでか? 厄介ごとに首突っ込んでないといいが。


『わかった!』


 俺とクロウリーは急ぎ飛び立った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る