第23話  不老不死探偵の助手 其の十

 なんてこった。異国の魔術師六人を、玄女はあれよあれよという間に伸しちまった。

 なのにオレたちは、戦って勝つとまではいかないが、逃げることくらい出来ると思っていたけれど、それすら許されなかった。

 逃げずに戦うことを選んでいれば勝てたか? いや、あいつらは稲妻小僧の速さにも対応していた。オレの拒絶の異能は出す暇も無かった。宇良の治療回復なんて必要になる時さえこなかった。勝つなんて無理だったと思う。

 それ以上に、オレはみんなの命すら危険に晒してしまった。ここでオレたちは全滅して、死んでいたかもしれないんだ。

 クソ、クソ、クソ。自分の無力さに腹が立つ。自分の浅はかさに腹が立つ。自分の慢心に腹が立つ。

 結局、オレは、役立たずの己惚れたガキだったんだ。

 オレは最低最悪の気持ちで、顔に付いた土を拭い、口に入った砂を唾と一緒に吐き捨てた。


「春日くん‼ ブジか⁉」


 玄女が正面から声を掛けてくる。

 玄女、アンタはすげぇよ。前から思ってたけどさ、なんか悔しいから認めたくなくてさ、でもやっぱり改めてすげぇよ。

 体術なんだか術式なんだか良くわかんねーけど、本当に出鱈目な強さだ。トキジク師匠以外にも、こんな凄い奴が近くに居るんだ。

 オレは謙虚になって、学びたい。そしてもっともっと強くなりたい。守ってもらうだけじゃ嫌だ。役に立ちたいんだ。いつの日か、師匠や玄女と肩を並べて、歩けるようになりたいんだ。


 俯いたオレの頬を涙が伝い、地面に落ちる。

 オレは玄女の方へ一歩前に踏み出す。

 そして涙を拭き、顔を上げる。


「玄に・・・」

「さぁ、春日くん‼ 玄女ネェさんのつよさ、ホンモノっす、サイコウっす、オレカンゲキしたっすぅ、ダイスキっすぅ、って泣いてワタシのむね、トビコンデきてもイイんダヨ‼」

「・・・・」

「あふれる思い、ガマン出来ねぇっす、きつくダキシメて欲しいっすぅ、ってエンリョせずに、さぁ、さぁ、さぁ‼」


 玄女が期待に胸を膨らませ、両腕を広げて待ち構えている。


「そんなこと・・・」

「さぁ、どうしたの⁉」

「そんなこと、・・・・そんなこという訳ねぇじゃねぇかボケぇぇ‼ だぁれがお前の胸なんかに飛び込むかよバ~カ‼」

「ふふふ、照れてモジモジしている春日くんも、カワイイな‼」


 ああ駄目だ。ブチ切れて頭の中が真っ白になりそうだ。意識が遠のいていく。


「春日くん‼」


 ふらついて倒れそうになったところを、素早く玄女が抱き留めてくれた。


「まったく、素直じゃないな」


 体を抱き支え、オレの顔を上から覗き込みながら、玄女は笑った。

 結局、オレは玄女の胸に飛び込んだ形になってしまった。

 なんだコレ?



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