第22話  愛情の裏返し

『あれがソロモンの指輪だって⁉ 偽物じゃねぇのか? パリでサン・ジェルマン伯爵に見せてもらった物とは全然違うぞ』

『サン・ジェルマン伯爵? それってあのサン・ジェルマン伯爵ですか? 彼はかなり昔の・・・。あなたいったい・・・』


 やべ、余計なこといっちまった。適当に誤魔化そう。


『それより、本当に本物なのかよ?』

『正真正銘の本物ですよ。ソロモンの指輪は、その時々によって、気まぐれみたいに形や性質を変えるんです。まるで意思をもっているように』

『なんだそれ。たく、厄介な物持ち込んでくれたもんだぜ』

『ええ⁉ ぼ、僕の所為ですか⁉』


 オレは驚くクロウリーをじっと見詰める。


『・・・・、後さ、ずっと気になってたんだけどさ、おまえのそれって、なんなの?』

『そ、それ?』

『その口調の変化だよ。たどたどしいかと思えば、急に流暢に喋り出したり。もしかして阿片かなんかやってんの?』

『いや、これは、その、正に指輪の副作用というか・・・』

『え、まさか、おまえあの指輪嵌めてたのか?』

『はぁ、あの、なんだか、奇麗で魅力的だったもので・・・』

『正気かよ。婚約指輪じゃねーんだぞ。だいた指輪嵌めるとどうなるんだ?』

『いや、これは、嵌めてみたいとわからないというか・・・・、あのそれより指輪が心配ならもっと急いだ方がいいかもですよ』

『なんだぁ? 急に』

『指輪奪還の追手が迫っているっていったじゃないですか』

『ああ』

『ハッキリいって、ほぼどうでもいい連中なんですが、一人だけ厄介な人物が混ざっているんですよ。古のコプト魔術の使い手、パウロス・メタモン。彼はまったく底が知れない不気味な奴なんです』

『どの程度厄介なんだ?』

『取り敢えず、彼に指輪を渡してはならない、としかいえませんね』


 あんまりはっきりしない言動だが、俺が思うにクロウリーは恐らく天才肌の魔術師だ。そんな奴が底が知れないというなら、相当なもんだということだ。


『よし、更に飛ばすぞ。ていうかそういうことはもっと早くいえ』

『あなたが無駄に急かすから』

『なんだと?』

『ほ、ほらぁ、そうやって直ぐ高圧的な態度をとるぅ』

『うるせぇ。それは愛情の裏返しってやつだ』

『ええ⁉ ななな、なんですか、また急に』

『冗談だ。ほら、ちゃんと付いて来いよ』

『はいはい』


 クロウリーは向かい風の中、大袈裟に溜息をついた。


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