第21話  月夜に二人で

『お前、飛翔の術くらい使えるんだろ? 誰かさんの愛弟子はさ』


 オレはホテルの外に出て、クロウリーに訊いた。

 今まで散々もっともらしい態度取りやがって、使えなかったら本気で置いてくぞ。


『つ、使えますよ。馬鹿に、馬鹿にしないで下さい』

『なら行くぞ。俺に付いてこい』


 そういっても、クロウリーはぼーっとして突っ立っている。


『おい、やる気あんのか。飛ぶぞ』

『あ、は、ハイハイ。・・・まったく、なんか急にリードしだして、カッコいい感じになっちゃって・・・』

『ああ? なんかいったか?』

『いってません、なにもいってません。行きますよ、どこへでも飛びますよ』


 なんなんだ? 独りでぶつぶつ呟いて。やっぱり変な奴。

 俺は飛翔の術式を意識に上げ、発動させ、空中に飛び上がる。下を見ると、クロウリーも同じように飛び立った。


『こっちだ。飛ばすぞ』

『ハイハイ』

『遅れんなよ』

『わかってますよ』


 俺は華僑街へ向けて飛んだ。

 遥か海上の夜空に、煌々と輝く月が昇っている。

 まったく、こんな夜は冷たいビールを一杯やりながら涼んでいてぇのに、嫌になるぜ。


『そいやおまえ、なんで指輪を盗んだんだ?』


 なんとなく、飛んでるだけじゃ暇だから、並飛行しているクロウリーに訊いてみた。


『だ、だ、だから、それは盗んだのではなく・・・』

『言い訳はいいから、ちゃんと話せ』

『なんで僕がそんなの答えなくちゃいけないんだよ・・・』

『ああ⁉ なんかいったか⁉ 聞こえねぇ』

『わかりました‼ 話します‼ たくもう強引だなぁ。だからぁ、僕の師匠と対立している一派がいてぇ、彼らがこぞって師匠を弾劾して、遂には団からの追放を決定したんです。もちろんそんなこと受け入れられない師匠は、見せしめに僕をロンドンの神殿に遣って、そこに保管してある魔導書や魔道具を押収させて、活動不能にさせようとしたんです。はい、これでいいですか⁉』


 夜空を飛翔しながら、クロウリーはヤケクソ気味にいった。


『で?』

『で? はいはい。それでぇ、押収した魔導の品々を持って、一層のこととことん逃げてやろうって、世界一周の旅に出たんですぅ。そしてたまたま寄港した横浜で、こんな地の果てみたいなところならいいだろうと、思い切って押収品を全部売っ払ったんですよ!』

『全部じゃないだろ』

『もう、わかってるならいわんで下さい』

『あの指輪はどういう代物なんだ?』

『あれはぁ、えーと、そのぉ・・・』

『ハッキリいえ。それが今後の結果に影響するかもだ』

『わかりましたよ、もう。あれは、あれはぁぁぁ・・・・、ソロモンの指輪なんです』

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