第25話 不老不死探偵の助手 其の拾壱
「さぁ、えんりょなく、食べてくれ」
玄女がいった。
卓の上には上海粥の揚げ餅のせや胡麻団子や肉饅頭やらが並んでいた。
「玄女姐さん、これ本当に頂いていいんですか⁉」
稲妻小僧が歓声を上げる。
姐さんってなんだよ、いきなり懐いてんじゃねぇ。
「そういえば、お腹減ったよね。では、有難く頂戴します」
宇良が箸を取る。
まったく遠慮がない。
「さぁ、春日くんも」
「・・・ていうか、いっつも金無い金無いいってる玄女が、どういう風の吹き回しだよ」
玄女が白人魔術師どもを圧倒した後、オレたちは再び茶屋に入いり、こうして卓に付いていた。ぶっ飛ばされたあいつらのその後は知らない。突っ込んだ商店で、壊れた壁とか商品を弁償させられてたらいいのに。
「春日くんと、そのお友達のがんばりへの、ごほうびだ。苦ではないよ」
またそういう恥ずかしいことをいう。
オレは舌打ちしながらも、皿に箸を延ばす。
宇良のいう通り、確かにずっとなんにも食ってなかったよな。
とはいっても。
「・・・あのさ、そうやって見られてると食い辛いんだけど」
玄女の視線に耐えられなくなってオレはいった。
「私がおごった食べ物を春日くんが美味しそうに食べている様子を眺めているのがしふくなんだ」
「だから、おかしな行動は止めろよ」
いちいち気持ち悪い言い回しをするんだよなぁ、玄女は。どうにかならねーのかな。
「その態度は良くないんじゃないのか? 春日。せっかく御馳走してくれているのに」
宇良が食べながらオレをたしなめる。
「そうだそうだ、玄女姐さんに失礼だ」
稲妻小僧も合いの手を入れる。
「お前らにはわかんねーんだよ、玄女のウザさが」
「酷い言い草だなぁ、一緒に住んでるんだろ?」
宇良が整った顔をしかめる。
「そういう問題じゃない」
「ありがとう、ウラくん。私は皆の元気な笑顔と優しさでお腹一杯だ」
「だぁかぁらぁ・・・」
オレがまた文句をいおうとすると、玄女が突然真剣な顔つきになった。
「どうしたよ。腹でも壊したか?」
玄女が無言で睨みつけている店の外に視線をやると、さっきぶちのめされた口髭魔術師が、一人の男と連れ立ってこちらを指差していた。
『あいつらです。メタモン様』
隣の男、頭に亜麻色の布を巻いて、真っ黒な髭を伸ばした痩せた男が、不敵な笑いを浮かべてオレたちの卓に歩み寄ってきた。
『ただのゴロツキならこいつらの訴えなど聞かずに捨て置いたものを、女、お前も長き時を生きる者だな?』
はっきりいって言葉が一言も理解出来ない。
だけど、嫌なことをいっているっていうのは完全に伝わってきた。
卓に座る全員に緊張が走る。
「なぁ、玄女。このオッサンのいうことわかるか?」
「もちろん」
わかるのかよ、スゲー。
『まさかこんな辺境の地で不死の者に出会うとは。で、長命の女よ、何故指輪を狙う? お前如き下賤な田舎者風情が求めてよい代物ではないぞ?』
「おい、玄女、なんていってんだ?」
「さっぱりわからない」
わかんねーのかよ‼
「だがしかし、腹が立つこといわれてるのはわかるぞ」
玄女はそういって、勢いよく椅子から立ち上がり、不遜な笑顔を浮かべて布巻頭を睨み返した。
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