第2話 逃げるが勝ち
「問答無用‼」
俺は両足揃えて思いっ切り飛び蹴りをぶちかまそうとした。優男警官の手前に居る稲妻小僧が邪魔だったがもうどうでもいい。二人諸共蹴り飛ばしてやる。
「甘いな」
そう長髪警官が呟いたかどうか悟る前に、俺はなにか強烈な力で逆に吹き飛ばされ、また元居た家の屋根に激突した。因みに稲妻小僧も巻き添えを喰らって、屋根から転がり落ちる。
あいつ、そういやなんか動けなくなってたんじゃなかったっけ? このまま道路に落ちたら受け身取れないだろ。
俺は咄嗟に屋根瓦を蹴り、落ちる稲妻小僧に飛び付いた。
「うげぇ」
結果的に俺が下敷きになって、稲妻小僧の落下の衝撃を和らげることが出来た。代わりに俺の体が痛ぇけど、ほら俺不死身の再生能力あるから。
「あ、ありがと・・・」
体を硬直させたまま、稲妻小僧はお礼の言葉をいった。
あ? なんだ? 急にしおらしくなりやがって。
俺は体の上に乗った小僧の体を退かし、立ち上がった。何気に見ると小僧の背中に呪符が貼り付けてあった。恐らくこれが急な体の麻痺の原因だろう。あの警官が貼ったんだ。ついでに剥がしてやる。
「畜生痛ぇなこの野郎!」
俺は腹いせに屋根上の警官に怒鳴り散らす。
しかし俺たちを吹き飛ばしたあの感じ、似ているなぁ、もしかして・・・。
「そこまでしなくても、私が助けたのに」
優男警官は、屋根の上から俺たちを見下ろし、憐れむようにいった。
「なんだと? テメェがやったんだろ⁉」
「はぁ? だいたい最初に君が突っ込んでこなかったら彼が落ちることはなかったと思うが?」
「ごちゃごちゃうるせえな! このクソ警官‼」
「うるせえのはお前だろ! 夜中に人ん家の屋根壊してなに騒いでやがる‼」
げ、とうとう長屋の家主が家から出てきた。激怒の余り手には出刃包丁握ってやがる。
「うわっ、ヤバい」
俺は説明を求めて屋根上の長髪警官を見上げたが、既に姿を消していた。
なっ、あの野郎。
「オイ、どこ見てんだよ」
家主が鬼の形相で包丁を向けて迫ってきた。酒の臭いがここまで届く。相当酔ってるな。
「いや、これは、泥棒を・・・」
地面に寝転がっているはずの稲妻小僧を目で探したが、これも既にいなくなっていた。
クソッ、折角麻痺の呪符を剥がしてやったのに、逃げやがった!
誰かこの状況を酔っぱらいのオッサンに説明してくれる奴はいねーのか。
「あ? なんだって? 泥棒? いねーじゃねーか。馬鹿いってねぇでとっとと屋根の修理代出せや‼」
かくなる上は仕方がない、一般人には使いたくなかった技だが、緊急事態だ。
俺の秘奥義。
「あっ、あんな所に稲妻小僧が‼」
俺は大袈裟に鬼の家主の背後を指差した。
「なに⁉」
家主のオヤジが振り向いた瞬間、俺は地面に落ちたピースメーカーを拾いつつ、猛然とその場から逃走した。
うん、逃げるが勝ちだな。
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