第19話  不老不死探偵の助手 其の八

「そら、逃げるぞ!」


 オレは叫び、茶屋の外に駆け出す。


「はぁ? 結局逃げるの?」


 宇良が驚いていった。

 しゃーねーだろ。先に目を付けられてたんだから、これくらいやんねーと取っ捕まっちまうんだよ。


「三人バラバラに逃げろ。後で横浜駅で会おう!」


 うなずくなり、稲妻小僧は直ぐに姿を消した。


「オレは、こっち。宇良はそっちに!」


 オレと宇良は互いに逆方向に走り出した。


「うわっ」


 しかし直ぐに背後から宇良の声が聞こえてきた。

 走りながら振り返ると、宇良の前に三人の白人が立ち塞がっていた。


「なっ、宇良!」


 引き返そうとすると、背後から声を掛けられた。


『逃げられると思ったか?』


 気が付けばオレのところにも白人二人が詰めて来ていた。

 ちっ、先を越された。

 思っていた以上に対応が早い。

 そして茶屋の中から鼻血を拭きながら、稲妻小僧に殴られた口髭男が遅れて出てきた。


『やい、逃げた餓鬼! まだ近くに居るのはわかっているぞ! 仲間を助けたくば出てこい!』

「稲妻小僧! 構わず逃げろ!」


 オレが必死で叫ぶと、白人男が俺の背を蹴り飛ばした。


『黙れ!』


 すると、野次馬の人だかりの隙間から、稲妻小僧が現れた。


「馬鹿、まだ近くに居やがったのかよ」


 蹴られて地面に盛大に倒れ込んだオレは、立ち上がりながら呟いた。

 どうして逃げなかった。これじゃ全滅だ。


『ふふふ、仲間思いのいい奴じゃないか』


 口髭男が稲妻小僧に近づいていく。


「おい、なにすんだ!」


 口髭男に向かって行こうとするオレを、白人仲間が背後から羽交い絞めにして止める。


『大人の社交辞令を教えてやろう。これはさっきの挨拶のお返しだ!』


 口髭男は稲妻小僧の腹に思いっ切り拳を入れた。


「テメェ、コラ‼」

「稲妻小僧‼」


 オレと宇良が同時に叫ぶ。


『おっとおかしなことをするなよ』


 口髭男がそういって、目で合図をすると、宇良の背後に居た白人が呪文を唱え、バチッという破裂音を伴った閃光を放った。


「宇良!」


 瞬時に宇良は膝から崩れ落ち、地面に倒れた。


『小僧、術師をなめるなよ? 強化の魔法を使えば、人並み以上に速く強靭になれるのだ』


 地面に倒れ込んで動かない稲妻小僧と宇良。

 そしてオレも、両腕を後ろ手に固められ、膝を付き、地面に顔を押し付けられている。

 クソ、こいつら戦い慣れしてるのか? いったい何者なんだ。


『くくく、どうだ? 土の味は。さぞ美味かろう。さて、威勢のいい小僧。状況はわかっているだろ? 下手なことすれば、お前の仲間が痛い目に合う。まぁ、ここで指輪の在りかを吐かせてもいいが、人目が有り過ぎる。どこか場所を移すか。そこでたっぷりその体に訊くとしよう。なぁに、悪いようにはしないさ。お前はきっと自ら進んで、指輪のことを話させてくれと懇願してくるようになるだろうよ』

 

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