第18話  不老不死探偵の助手 其の七

『まったく、東洋の子猿には躾が必要だな』


 口髭を蓄えた体格のいい白人男が、ニヤリと笑みを浮かべた。

 それを見て、途端に背筋にぞわぞわと悪寒が走る。

 気色悪い奴。もしかして、オレこんなんばっかじゃない?


『汝に深き眠りを与える』


 口髭男がオレを指差してそう語ると、急に頭の中と瞼が重くなった。

 しまった・・・。

 体がぐらぐらと揺れ、床に膝をつきそうになるところを、誰かが体を支えてくれた。


「魔法だ! おい、春日、しっかりしろ」


 宇良がすかさず駆け寄ってくれたんだ。


「おい、大丈夫か? なにされたんだ?」


 オレたちの前に、稲妻小僧が立った。白人たちから護るように。

 強制的に眠りに墜ちそうなのをなんとか踏ん張り、無理矢理意識を集中させる。


「眠りを拒絶する!」

 直ぐに眠気は吹き飛び、意識がはっきりする。

「もう大丈夫だぜ此畜生」

 悪態をつき、宇良の肩を借りて、しっかりと立ち上がった。

「やいテメェら、余所のウチで好き勝手やってんじゃねーぞ!」


 オレが啖呵を切った頃には、白人集団全員が椅子から立ち上がっていた。

 へへへ、お互い臨戦態勢って訳だ。


『お前たちが蛇の指輪の話をしていたのが偶然聞こえてきたものでね』

「盗み聞きとは、大人のくせに躾がなってないんじゃねぇの?」

『それじゃ詳しい話を聴きたいんだがなぁ』

「へっ、試してみるかい?」


 相手は六人。少なくとも一人は術師。

 ま、一人だけっていうのは有り得ない話しだな。

 取り敢えずは、稲妻小僧の速さで出鼻を挫く。

 後はオレが防御して、なにかあれば宇良に治療してもらう。

 しかし優先することは・・・。


「稲妻小僧、あの口髭に一発頼むぜ」


 オレはそう耳打ちする。


「合点」


 瞬時に稲妻小僧は口髭男の前に移動し、その腹に拳を一発、更に屈んだ顔に膝蹴りをお見舞いして、また戻ってきた。


「うわ、ちょっとやり過ぎじゃ・・・」


 宇良が小声でいう。


「いいんだこれで。そら、逃げるぞ!」


 店に客たちも何事かと注目し始めていた。稲妻小僧の意表を突く速さの攻撃で、相手方が浮足立っているこの機に乗じて、オレたちは一斉に店の外に駆け出した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る