第32話  本性

 元メタモンに向けて銃の引き金を引いこうとした刹那、手首から切り落とされた。

 俺は咄嗟に落ちる右手を左手で受け止め、後方に下がった。

 ここでいきなり右手を失うのは避けたかった。右手は暫くすれば再生して元通りになる。しかし右掌に施した物質転送術式は再生されない。それに直ぐに右手が生えてくる訳じゃないからな。今は一瞬の間が惜しい。

 だから俺は血が噴き出る右手首を腕に付け直し、更に宇良君に治癒を頼んだ。


「宇良君、至急手をくっ付けてくれ!」

「ハイ!」


 俺の再生と宇良君の治癒で二乗効果だ。

 更に元メタモンの追撃は春日が拒絶の異能で食い止めてくれた。

 時間を稼いでくれ。

 同時に玄女が挑みかかる。


『奴は魔術を越えた事象を操る。ただの攻撃では防がれるぞ』


 クロウリーが俺の側でいった。

 お? 口調がまた変わってるな。


『玄女だって馬鹿じゃない。それくらいわかってるさ』


 しかし元メタモンは、玄女が攻撃態勢に入る前に先手を打とうとした。

 そこに稲妻小僧が金槌を手に襲い掛かったが、呆気なく受け流されてた。それでも玄女の時間稼ぎにはなった。


『還神王気!』


 どうやら気が廻ったようだ。玄女は体に薄く金色の光を纏い、瞬時に間合いを詰め、元メタモンに接近戦を仕掛けた。

 目にも止まらぬ突きや肘や蹴りや膝の応酬。

 通っている。玄女の体術が通ってるぜ。ちゃんと元メタモンの奴、攻撃を受けている。しかし玄女の奴、あの技は・・・。


『彼女、物凄いことをやっているな。術式のイメージを直接肉体の攻撃に乗せているんだ。あれでは術や事象の操作では防ぎ様がない』


 クロウリーが素直に感嘆している。


「すげぇ・・・」


 春日も溜息を洩らした。


『しかし、あんな剛技、長くは持たないぞ』


 クロウリーのいう通りだ。玄女がダウンする前に、俺が参戦しなきゃな。

 激しい殴打の応酬の中、玄女の攻撃が二三発入り、元メタモンの態勢が崩れた。それを見逃さず、玄女が渾身の蹴りを見舞い、喰らった元メタモンは蹴り飛ばされて建物二階の屋根瓦に突っ込んだ。

 玄女は地面に膝を付き、肩で息をしている。相当消耗したんだろう。

 しかし間髪入れずに元メタモンが突っ込んでいった建物が文字通り爆発し、轟音と共に吹き飛んだ。


『この下郎が‼ よくも‼』


 吹き上がる土煙と建材の中から勢い良く元メタモンが飛び出してきた。だがもうその姿はメタモンの形を留めてはいなかった。

 頭を覆っていた布は失われ、露わになった額からは角のような突起が二つ生え、ついでに腕も二本増えて四本になり、皮膚は炭の熾火のように赤黒くなっていた。

 もはや異形、鬼の姿だった。




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