第46話  星空の物語

「さ~て三下ども~、遊びは終わりだ! 俺が来たからには残りは全部食うぞ、寄越しやがれ‼」


 ハッキリいって空前絶後に腹減っている俺は、春日もなだめたことだし、勢いよく広間に入っていった。


「え~、あんたも食うつもりだったか⁉」

『残念だがトキジク、もうなにも残っていないぞ』

「なんだか下品ですね。マグナス様とは随分違うな・・・」


 稲妻小僧と玄女と宇良はそれぞれいいたいことを好き勝手にいい散らかした。


「て、テメェら、今回一番活躍したのは誰だと思ってんだ⁉」

「ん? もしかしてオイラか?」

『勿論、私だな』

「そもそもトキジクさん遅れて来ましたよね?」


 なんかさっきから約一名、地味に棘のある言葉いってません?


「師匠、諦めな」


 背後から春日が、俺の背中に手を当てた。


「なんで⁉」



 *****



『アイツ等全員寝たかい?』


 結局俺はまた中庭の椅子に座っていた。


『ああ、しっかり寝入っているよ』


 向かいに座っている李爺さんが答えた。

 俺は安堵した。ようやく肩の力が抜ける。


『さて、食うか』


 石で出来た卓の上には、夕飯食いっぱぐれた俺を哀れに思った李爺さんが用意してくれた料理が、ランプの灯りに照らされている。

 干し海老と冬瓜のスープと、茹で鶏だ。


『星空の下で食うのは、また格別だねぇ』

『こんな時間に、食い過ぎじゃないのか』


 時刻はもう真夜中を過ぎていた。


『またそんな。無粋だねぇ』

『ふん、いっとれ』


 不平をいいながらも、李爺さんは杯に並々と酒を注いでくれた。


『嗚呼! 一仕事終えた後の酒は美味い!』

『一仕事ねぇ。それにしては随分暴れたそうじゃないか。華僑街の一角が消し飛んだと聞いたぞ』


 李爺さんも酒を煽った。


『いわせてもらえば、被害があの程度で済んだのは、俺たちのお陰だよ? 奇跡に近いことだよ? むしろ褒めて欲しいくらいだね』

『ものはいいようだな』

『おいおい、信じてくれよぉ、本気も本気、大本気だぜ?』

『ま、あんな恐ろし気な指輪絡みならば、なにがあってもおかしくはないか』


 李爺さんは不承不承ながら俺の言葉を認めてくれたらしい。


『そういや、この邸の被害は大丈夫だったのかい?』

『ああ、大したことはない。貴重な資料や術式はちゃんと保護してある』


 そういって李爺さんは酒が注がれた杯を乾した。


『それ聞いて安心したよ。それにしてもさ、月並みだが世界は広いな、捨てたもんじゃない。四百年生きてても、まだ新しいこと、知らなかったことが出てくる』


 俺は酒で少し火照った顔を、星空に向けた。

 まったく、異次元の憑依体とか、星間戦争とか、いったいどうなってんだよ。


『今回の件、いったいどんな顛末だったんだ?』


 李爺さんは歳に似合わぬ鋭くギラついた目で俺を見た。

 いいねいいね、流石は非凡なる術式師。耄碌には程遠い。


『あ、聴きたい? 聴きたい? 話せば長くなるぜ?』

『ええい、じらすな。早う話せ』

『それならもっと酒が入らなきゃなぁ』

『酒など幾らでもある。遠慮なく飲め飲め、そして話せ』


 李爺さんは俺の杯に、酒を注ぎ足した。

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