第20話 水族館
「ご馳走様。アイリーありがとう。」
「ん。どういたしまして。」
アイリーが食器を洗い片づけていると孝明はアイリーに話かける。
「アイリー、次の日曜日って空いてる。」
正直孝明が出かけている時は彼女はずっと家にいるし、外に出る時も孝明と一緒なのでフリーなのは分かりきっていたが念のため聞いてみることにした。
「ん、大丈夫。私、いつもフリー。それで、どうしたの?」
「いや、僕らこうしてまた一緒に過ごせることになったじゃん?だから記念にいつもとちょっと違うところ出かけてみようかなあって思って。」
そう言うと孝明はアイリーにスマホの画像を見せる。
「ほら、ここ。水族館ってところ。こういう所アイリーは行ったことないだろうし今までお出かけって言うと徒歩でいけるところばっかりだったからたまには電車に乗ってちょっと遠くへ行ってプチ旅行してみるのはどうかなあって。」
そう言うとアイリーは興味深そうに(顔は相変わらず無表情ではあるが)スマホの画像を見つめる。
そしてアイリーは答える。
「うん、行きたい。でも孝明、日曜大丈夫?孝明いつも茉莉花のお誘いある。」
「今日言われたよ。次の日曜付き合えって。でもどうしても外せない大事な用事があるからって断ったよ。怒ってたけど、その分次会う時は好きなだけ奢るからって。」
とは言っても奢らされているのはちょくちょくなので、いつもとそこまで変わらないだろうと孝明は高を括っていた。
「孝明、茉莉花に嘘ついた?」
「嘘じゃないよ。だって僕にとっては大事な用事だからね。」
そう言うとアイリーは静かにこちらを見つめる。
一体彼女が今どういう風に感じているのだろうと思う孝明であった。
「行こう、孝明。次の日曜楽しみ。」
「うん、僕もだよ。じゃあ今日はもう寝るね。」
二人は後日を楽しみにしつつ就寝につく。
約束の日曜日になり、孝明とアイリーはアパートを出て駅へと向かい電車に乗ろうとする。
孝明が切符を買うとアイリーが困惑している。
「どうしたのアイリー?どの切符買ったらいいか分からないとか?」
「孝明。私造られて1年しか経ってないけど、大人とこどもの切符どっち買ったらいい?」
「お・・・大人でいいんじゃないかなぁ?」
アイリーの外見は14~15歳くらいだろうしそれが妥当だろうと思った。
もし子供の切符を買って駅員さんに見つかったら話がややこしくなりそうである。
二人は電車に乗り水族館近くの駅で降りる。
二人は水族館に到着し入場券を買い入る。
入場すると館内の色々な生き物を閲覧しながら奥へと歩いて行く。
一つ一つの水槽をアイリーと堪能しながら見ていく。
少し進むとシャチのいる場所に到着する。
孝明は子供のようにはしゃぎシャチを指さす。
「アイリー、見て!シャチだよ。大きいねえ。すごい!」
「孝明、どんな生き物も一生懸命生きてる。大きくても小さくてもみんなすごい。」
相槌を打ってほしかったと思い言ったのだが、アイリーらしい発言でくすっと孝明は笑う。
たしかに体の大きさで生き物の価値など決まる訳ではないと思った。
生き物にはそれぞれのすごさがある。
造られた存在である彼女だからこそなおのことそう思うのであろう。
「うん、そうだね。アイリーの言う通りだね。」
二人はそのまま館内へ進むが、孝明は色んな人の視線がこちらに向いていることに気づく。
アイリーを連れて行くようになってからこういことを感じることは何度かあった。最初はあの時の交通事故の件で彼女の存在が知れ渡ってしまったせいなのだろうかと思っていたが、時々『ねえ、あの子すごいかわいいね。ゴスロリ風の服すごい似合ってる。』とか『髪と目がすごい綺麗だね。外国の子かなあ?』と言う声が聞こえてきたりするのでそうではないのだろうと思った。
彼女の出会いの衝撃が強くて意識してなかったが、アイリーはかなりの美少女だ。しかも銀色の髪にエメラルドグリーンの瞳、そして今着ているドレスとどう見ても日本人には見えない外見である。
それゆえに注目を浴びてしまうのだろう。
(せめて、普通の服買ってあげればよかったなあ。)
服は成瀬博士に予備はないかと聞いたことがあるのだが、今着ているのとまったく同じのをもう一着持っているだけだったという。
孝明はそれをもらったが、実質今着ている服しかないのだ。
(それにしてもカップルが多いなあ)
人気の水族館ということもあり、ここをデートコースとして選ぶカップルが多いようだ。
今日は日曜日なので尚更だろう。
するとアイリーが孝明の服をくいくいっと引っ張る。
「どうしたの?アイリー。」
「孝明、手握ろ。」
唐突な発言に驚く孝明。
彼女がなぜこんなことを言い出したのか。
「え!?どうしたの、いきなり?」
「他の男と女の人たちみんな手繋いでる。だから、私たちもそうしてみたい。」
どういう心境でこんなことを言い出したのだろう。
自分たちもそういう関係になりたいと思っているのだろうか?
彼女はあくまでアンドロイドであり、そういう恋心など芽生えるものなのだろうか。
だが今までも彼女は何度か人間らしい感情表現をしたことがある。
全く可能性はない訳ではない。
色々と考える孝明だったが、とりあえず彼女の希望通りにすることにした。
「うん、アイリー。手、繋ごうか。」
アイリーは頷き手を繋ぐ。
孝明は心臓の鼓動が早くなっていた。
いくら相手がアンドロイドとはいえ、言動は普通の女の子と変わらないのだ。
意識するなという方が無理であった。
孝明はアイリーの様子を見る。彼女も実は照れているような反応を見せているのだろうかと思った。
だが孝明の予想とは違い、相変わらず無表情で分からりずらいがうつむいており少しがっかりしているようなそんな気がしていたのだ。
「アイリー、どうしたの?何か僕期待にそぐわないことした?」
アイリーは首を横に振り孝明の方を向く。
「ううん。大丈夫。孝明、次行こ。」
そう言うと孝明は頷き水族館の続きを楽しもうと奥へ進む。
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