第2話 少女との出会い

 花泉茉莉花はないずみまりかと別れ街中をぶらついていた藤井孝明ふじいたかあきは特に目的があった訳ではないがとりあえず悩みを忘れるために気晴らしに散歩することにしたのだ。

 本当なら今頃バイトをしていたハズだったのだが、茉莉花が今日会いたいなどと言い出したのでシフトを変えてもらったのだ。

 こうなることは予想できていたので、こんなことならバイトを優先すればよかったなどと思ったりもしたが、もし無理だと彼女に言えば文句のオンパレードだっただろう。








 街中を歩いていると60代くらいの老人と14、5歳くらいの女の子とすれちがった。


(おじいさんとお孫さんなのかな?でもその割には・・・)

 

 老人はどこかの研究所の科学者なのだろうか。白衣を羽織っており聡明な雰囲気を漂わせている。

 そして女の子は銀髪でM字分けのロングヘアに黒いドレスを着ている。まるで人形のように綺麗な子であった。

 二人は祖父と孫になのかとも思ったが、老人は日本人で女の子は外国の子にしか見えなく親族には見えなかった。


(でも母親が外国人ってパターンもあるし気にしすぎか)


 孝明はその二人のことが気になりつつもあまりジロジロ見てはまずいと思いそっぽ向く。

 二人が通り過ぎるのを確認するともう一度チラ見する。


「かわいい子だったなあ。」

 

 孝明は小声で思わずそうぼやく。








 孝明は街中ををぶらついていると女性2人が話し込んでいるのに気づく。一人は乳母車に赤ん坊を乗せて連れている。もう一人はそばに4~5歳くらいの男の子がいる。

 男の子は退屈のせいかフラフラと道路へと向かって歩き出す。


(おいおい、子供が道路に出歩いて行っちゃってるぞ。大丈夫か?)

 

 孝明の悪い予感は的中し、車がこちらに向かって走って来ている。


(まじかよ!やばくないか!?)

 

 車がすぐそこまで接近してきているのに気づく。

 このままではまずいと思い必死になり孝明は男の子の元へと走り出す。


 孝明は子供を抱きかかえ逃げようとするが、もう車は目の前まで来ていた。

 運転手はうつむいて何かを見ているようで二人に気づく気配がない。もしかするとスマホでも見てながら運転でもしているのだろうか。

 孝明はせめて男の子だけでも助けようと自分の身体で覆い隠しクッションにしようとする。


 その時何かが孝明達に向かって飛び出した。その何かは孝明達の盾となる。

 車は彼らに衝突しまるでボールのように遠くまで跳ね飛ばされる。

 運転手もようやく気が付いたのかぶつかる直前に急ブレーキをかける。


「おい!大丈夫か!?」

 

 運転手が車から降りてきて駆け寄りながら声をかける。

 母親も大きな衝突音のせいでようやく気付いたようで、母親と他の周囲にいた人たちも同じように走り寄ってくる。

 言葉を認識でき、痛みを感じている辺りどうやら自分は生きているようだ。

 

「え・・・ええ。なんとか。」

 

 孝明は周囲の人たちの声かけに応答すると自分が抱きかかえていた泣きわめいている男の子の安否も確認する。

 多少の擦り傷を負っているようだが命に別状はないようで孝明は安堵する。


「そうだ。さっきのは・・・」

 

 孝明は自分たちの盾になり守ってくれたのが一体何だったのか確認する。

 すると自分のすぐ隣で女の子が一人横たわっている。

 その女の子は先ほど孝明がすれちがった老人と一緒に歩いていたロングヘアに黒いドレスを着た少女であった。


「そんな・・・!この子、僕たちをかばって・・・!」

 

 孝明は彼女の安否を確認しなければと動こうとするがショックのあまり身体が動かない。

 出血が見当たらないが車の衝突を直に受けた彼女は無事では済まないだろう。生きていたとしても半身不随くらいにはなっているかもしれない。

 

 孝明が少女に駆け寄る前に周囲の人たちが彼女に声をかける。


「お嬢ちゃん!大丈夫かい!早く救急車を・・・!」


 運転手の男性がそう叫ぶが、次の瞬間信じられない光景が待っていた。


「うん、大丈夫。」


 そう言ったのは倒れていたその少女であった。

 その子はまるでちょっとつまずいて転んだだけかのように、スムーズに起き上がる。服が多少破けたりしているが、目立った外傷もない。


「・・・嘘・・・だろ・・・?」


 周囲の人たちも驚きを隠せずにいた。人間が走行している車の直撃を受けて平気でいられるハズがない。

 服の下に何か防具のようなものを着込んでいたり、あるいはよほど当たりどころがよかったのだろうかと意見が飛び交う。

 しかし肌が露出している部分も傷らしき物が見当たらない。


「あれくらいなら大丈夫。私、アンドロイドだから。」


「・・・は?」


 孝明や周囲の人たちは唖然とする。彼女の言っていることの理解が追い付かないからだ。


 この事故が藤井孝明と謎の少女との出会いとなった。


 





 



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