第3話 アンドロイド
交通事故が起こってからまもなく誰かが走って駆け寄ってくる。それは先ほどこの自分のことを人形と称する女の子と一緒に歩いていた老人であった。
「7038番!全く勝手な事しおって!」
老人は少女に向かって叱責するが彼女は反論する。
「でも、私が助けなかったらこの人たち大変なことになってた。」
「ぐっ・・・!」
老人は反論できず口ごもる。
彼女のおかげで孝明と男の子は大怪我することもなく、彼女自身も何かしら問題があるように見えなかった。
「とにかく早くここから逃げるぞ。」
「なんで?」
少女は老人の言葉にキョトンとした顔で聞き返す。
「もうすぐ警察が来るだろ。まだお前は試作段階だからあまり公にはしたくないんだ!」
「でももう私、この人達に言っちゃったし、見られちゃったよ?」
周囲の人たちは今も尚驚き立ち止まっている。
『なぜ平気でいられるのだろうか』とか、『あの子自分のこと人形だって言ってたよな』などと言葉が飛び交っている。
孝明も目の前の現実が受け入れられずにいたが、二人の会話を聞き冷静になる。
(やっぱり、この子本当に・・・。)
「とにかく早く行こう。研究所まで走るぞ。」
「でも博士。私、足ちょっと変。もしかすると配線がちょっと切れちゃったのかも。走るの厳しい・・・。」
少女は左足を引きずっていた。
人間のいうところの神経が切れたようなものだろうか。歩くくらいならできそうだが、走るとなると難しい様子であった。
「くっ・・・!仕方ない私が抱えて行く。行くぞ!」
老人は少女をお姫様抱っこで抱え走り出す。老人は苦しそうな表情で必死そうな様子であった。
「ぐっ・・・重い!やはり今後のためにも軽量化を考えておかんといかんな!」
「博士。女の子に『重い』って言うのNGって聞いたよ?」
「今はそんなことはどうでもよかろうに!!」
老人と少女は研究所らしき所に到着し、少女を椅子の上に座らせる。
「ふう。これだけ動いたのはかなり久しいな。」
老人は到着直後はかなりへばっておりひざまついていたが、少し休憩すると再び立ち上がる。
「さて、お前の修理をせねばならない訳だが・・・なんで君までいるのかね?」
老人が向かって発言したのは先ほどまで一緒にいた
どうやら彼も走って老人たちについて来てしまったようだ。
「いや、成り行きというかなんというか・・・。お礼が言いたかったんですよ。その子に助けてもらった訳ですし。それに知りたいんですよ。その子が一体何なのか。」
老人もどうするべきか悩んだが、観念することにし孝明に説明することにした。
「まあいい、話そう。ただし、あまり公にはしないでくれ。まだ開発途中でね。」
「は・・・はあ。まあ・・・。」
老人は孝明に釘を刺すが今はネット社会である。
自分が何もしなくてもう噂はSNS等で拡散されてしまっているのではないだろうかと孝明は思ったが黙っていた。
「私は
服装から想像はしていたが、やはり老人は科学者であることを孝明は認識する。
「よく人手不足解消をロボットで補うって話聞きますよね。ああいうやつですか?」
孝明が質問すると成瀬は話を続ける。
「それと普通の人間では助けられないような救助用としてもだね。先ほど君たちを守ったように。」
孝明はそれを聞きなるほどなあと思った。
たしかにあの状況だと普通の人間であったならば助けが間に合わなかったかもしれない。
少なくとも車を直撃した彼女は無事では済まなかっただろう。
そういうところにアンドロイドの利点があるのだと思った。
「私はそれに加えて家族としても一緒に暮らせるパートナーにもなれるよう開発しようと思っているんだ。」
そう成瀬は椅子に座っている先ほど孝明と男の子を助けてくれた銀髪ロングの少女の頭を撫でる。
「やっぱりこの子って・・・。ほんとに人間じゃないんですか?顔や髪だって普通だし関節部分だって綺麗で今でも信じられ・・・。」
孝明はそう言いながら少女の指先を触るとその感触が固く、彼女は人間ではないと改めて認識する。
「もし作り物の人形と外を出歩くとしたら、見た目から人工物だと分かってしまうと一緒に連れて行きづらくなるだろう。だから外見も人間と変わらないようにだいぶ改良は施したよ。」
成瀬がそう説明するとなるほどなあと孝明は思った。
確かに明らかに人でないものを連れ歩いて話をしたり遊んでいたりしたら『私は友達がいません』と周囲にアピールしているようなもんだなあと。
「すごいですね。もう完璧に近いんじゃないんですか?開発途中って言ってましたけど、何が足りないんですか?」
「感情表現がちょっとねえ・・・。ずっと無表情だろう?その辺がどうもうまくいかかないんだ。」
たしかに表情だけを見るとやはり人っぽさが欠けているように感じる。
車にはねられ起き上がった直後も痛みで顔を歪めるといったこともなかった。
アンドロイドなのだからそれが普通と言えば普通なのだが、彼女の見た目があまりにも人間そのものにしか見えないため余計違和感を感じた。
「普段外部から刺激が来るとこの子の中にあるデータバンクやネット回線から的確な情報を得て状況に応じた行動をとるようにしてるんだがね。そこで喜怒哀楽も付与するようにしてるんだが・・・どうも上手くいかなくてねえ。」
「なるほど。」
「『嬉しい』とか『悲しい』とか何かしらの感情を感じてはいるようではあるんだ。ただそれが一体何なのか理解が追い付いていないようで、それが表情や行動に伴っていないようなのだよ。私もまだまだ未熟だな。」
孝明はここまで精巧に造れただけでも十二分にすごいと思ったが、本人は納得できていないようなので何も言わないことにした。
「でもそれだけなら一緒に暮らしたりするくらいはできそうですけどダメなんですか?」
孝明がそう聞くと成瀬はしかめた顔で答える。
「たしかにそれがなくても共同生活に問題ある訳ではないんだが、もうひとつ大きな問題が・・・。」
「え?」
「いや、なんでもないんだ。」
孝明は成瀬が何を言おうとしたのか気にはなったが、言いたくなさそうだったのであまり追及しないようにしようと何も言わないでおいた。
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