第7話 初めての買い物

 アイリーとの生活が始まって数日が経った。

 藤井孝明ふじいたかあきはいつも通り学校を終えるとアパートへと帰宅する。今日はバイトが無いので早く帰れる日であった。


 家に到着するとアイリーが出迎える。


「おかえり、孝明。今日は早く帰れるって言ってたもんね。」


「ただいま、アイリー。今日はバイトがなかったからね。」


 毎日これくらいで帰れたらいいのになあと思う孝明であった。

 バイトがあるとほぼ一日中家にいないのでアイリーをずっと一人にしてしまうことになってしまう。

 しかしバイトを辞めると生活が厳しいのでやめる訳にはいかなかった。


「孝明、どうしよう。家に材料ないからご飯作れない。」


「え?そうなの?しまったなあ。最近ずっとアイリーにまかせっきりで自分で管理してなかったから気づかなかった。」


 孝明はそう言うと部屋へ行き、普段持ち歩いているのとは別の生活費用のお金を机の引き出しから取り出す。


「ちょっと買い出しに行ってくるよ。悪いけど、もう少し留守番お願いするよ。」


 孝明はそう言い出ようとするとアイリーが声を掛け引き留める。


「孝明、私も買い物行きたい。」


「え!?」


 孝明はいきなりの彼女の発言に驚く。


「・・・ダメ・・・なの?」


「いや・・・。ほら・・・君初めて僕と会った時、事故にあったじゃん?あの騒動のせいで君が見つかるとややこしくなりそうだなあって・・・。」


 あの後色々調べたが案の定ヅイッターでは自分たちのことと思われる呟きが見つかった。

 一緒に車にはねられた自分と男の子のことは触れられていなかったが、アイリーのことは『女の子が車に引かれたのに何事もなかったかのように立ち上がった!』とか『自分のことを人間ではないと言っていた彼女。果たして何者なのか』などといったことが投稿されていた。

 幸い孝明が見た限りでは写真や動画の投稿はされていなかったが、あの現場にいた人たちはアイリーの姿を見ているので見つかると騒ぎになるだろう。

 アイリーの開発者、成瀬清なるせきよしもあまり公にしたがらない様子だったのでもしそうなったらよく思わないだろう。


 そうは言った孝明だが、がっかりしてそうなアイリー見て孝明は悩んだ。

 無表情でもシュンとしているのをなんとなく察した。


「仕方ない。一緒に行く?」


 そう孝明が言うと、アイリーは顔を上げる。


「いいの?孝明に迷惑かけない?」


「まあなんとかなるんじゃないかなあ。ただし、あまり目立たないようにね。」


「うん、ありがとう。」


 正直何か見つからないようにする策があった訳ではないが、このまま彼女を置いて行くのが孝明の良心が痛み耐えられるかどうか怪しかったので連れて行くことにした。

 何より彼女には色々と世話になっているので、できるだけ要望を叶えてあげたいという気持ちがあった。


「じゃあ行こうか。」


 孝明がそう言うとアイリーは小さくうなずきスーパーへと向かう。






 スーパーに着いた孝明とアイリーは買い物かごを手に取り買い出しを始める。孝明は買い物リストを取り出す。


「えーと、買うものはと・・・。」


 孝明がリストを読み上げようとするとアイリーが店の中を見渡す。


「アイリー、何か探してるの?」


「ううん。ただ、こういうとこ来るの初めてだから珍しく思っただけ。ネット経由で画像データも取り入れたこともなかったから新鮮。」


 確かに飲食の必要のない彼女自身がまずこういうお店に来ることはないだろうからなるほどなあと思う孝明であった。

 当然そういう情報も収集する機会もなかったのだろう。


「成瀬博士にはこういう買い物に連れてきてもらわなかったの?」


「博士、普段私を連れて出歩かない。孝明に会ったあの日は街中に出歩いても大丈夫かテストしてたから。」


「テストって言うと?」


「私、困ってる人いたら助けるようプログラムされてる。でも何から何にでも首突っ込んだら困るからってそのプログラムのレベル下げてどれくらい制御できるかのテスト。あの日かなりレベル下げて出かけてたけど、私勝手に動いて孝明達のところ走ってった。」


 孝明はそれを聞いて苦笑する。


「でも人間でもそういう人いるよね。やたら首突っ込んで見境なく人を助けようとする人。


「それ、孝明のこと?孝明、自分が死んでたかもしれないのに、あの子の事助けようとした。


「そ・・・そうなの・・・かな?分かんないけど・・・。」


 孝明はいきなり自分が指摘されていささか恥ずかしく感じる。

 自覚が全くなかったがたしかに子供の命が危なかったとはいえ、見ず知らずの人を自分の命を懸けて助けようとするとか自分もそれに該当するのだろうか。

 正直あの時取った自分の行動には自分自身でも驚いている。


「でもアイリーには感謝してるよ。あの時助けてくれたおかげで僕とあの子は無事だったんだし。ありがとう。」


「ううん。私はプログラムで勝手に動いただけだから。」


「それでもありがとう。」


 二人がそのような会話を続けていると、唐突に彼らに声が掛けられる。


「ちょっ・・・!孝明!あんた何してんの!?」


 孝明とアイリーは声のした方を振り向く。


「ま・・・茉莉花!」


 そこには孝明の彼女である花泉茉莉花はないずみまりかがいた。







 


 



 

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