第8話 二人の対面

 花泉茉莉花はないずみまりかと遭遇した藤井孝明ふじいたかあきとアイリーは買い物をし終えると店を出て近くの喫茶店に行くことになった。お店で注文を済ませると茉莉花は孝明を睨みつける。


「で、何なのそれは?」


「こ・・・この買い物のこと?これは夕飯の買い出しで・・・。」


「そんなこと聞いてるんじゃないって分かってるでしょ。その子のこと聞いてるのよ。」

 

 孝明の返答に茉莉花は苛立ちを見せる。

 彼女の言っているその子とは当然隣に座っているアイリーのことである。

 しかし女の子に向かって『それ』呼ばわりはないだろうと思う孝明だが、茉莉花にそんなことを言っても無駄なのは分かってるので言わずにいた。


「こ・・・この子は、その・・・。」


「私、アイリー。孝明の家に一緒に住んでる。」


 孝明が口ごもっているとアイリーはサラッと言い出す。


「・・・はあっ!?一緒に住んでる!?孝明のアパートに!?なんで!?」


(アイリー、あんまり余計なこと言わないでくれよお~)


 アイリーも自分がアンドロイドであることは言わないでおいてくれているようだが、それ以外の配慮が完全に欠けているようだ。

 そりゃ事情を知らない茉莉花からしたら、彼女持ちのくせによその女の子と付き合っているようにしか見えないだろう。


「えーと。孝明が一緒に住みたいって言った。」


 アイリーが更に追い打ちをかけるように答えると孝明が心の中で悲鳴を上げる。

 だが孝明に何かこの場を誤魔化し通す策があるのかと言われると何もなかった。


(アイリーー!!たしかにそうなんだけどさあ・・・!!)


「・・・孝明!あんたどういうこと!?」


「いや・・・だから・・・その・・・。」


 孝明が何か答える前に茉莉花の非難が始まる。


「あんた私というものがありながら、他の女の子を連れ込んで・・・!そんな二股かけるような奴だったの!?まさか今までも何度も色んな女を・・・!!」


「ちょっと茉莉花!声がでかいって!!」


 他にも何人かお客がいて、すでに何人かがこちらに視線を向けている。

 静かな喫茶店でこれだけ騒がしく、まして浮気騒動のような会話を聞かれては当然だろう。


「孝明そんなことしない。」


 アイリーがフォローに入るが、それが逆に茉莉花の怒りを逆なでしてしまう。


「あんたこいつを擁護する気!?あんたもこのすけこましの奴隷の一人として利用されてんのよ!悔しくないの!?」


「どうどう。茉莉花、落ち着く。」


 アイリーは手を前にだし、茉莉花をなだめようとする。


「私は馬か!いきなり人を呼び捨てまでして!」


 茉莉花がアイリーの手をはたく。

 すると茉莉花は何か違和感を感じ戸惑う。


「・・・え?何・・・これ・・・?」


 茉莉花は自分の手を見つめ固まってしまう。

 さっきアイリーの手に触れた瞬間まるで金属でもはたいたかのような感触が伝わってきたからだ。


「あっ・・・!!」


 孝明はこれ以上ここで騒がれるのはまずいと判断し席を立つ。


「失礼しました!お代ここに置いておきます!」


 孝明はアイリーと茉莉花の手を握りお店から脱兎のごとく逃げだす。








 お店から逃げてきた孝明達は遠くの人気のない裏路地まで逃げてきた。

 孝明はこれ以上隠すと余計ややこしくなると判断し茉莉花にアイリーのことやその他事情を明かすことにした。


「ふーん。で、その怪しげなじいさんの造った人形の実験としてあんたはこの子と住んでるって訳?」


 『怪しげって・・・』と心の中で孝明は突っ込みをいれる。


「ま・・・まあ、そういうこと。ごめん、隠してて。あんまり成瀬なるせ博士に公にしないでほしいって言われててさあ。」


 孝明が申し訳なさそうに答えると茉莉花が今度はアイリーを見つめる。


「しっかし、この子がアンドロイドねえ。どう見ても人間にしか見えないわあ。関節だって綺麗だし、爪まで施してあるし。」


「うん。四肢みたいに見えるところは綺麗に仕上げたけど、身体はマネキンみたいにつるつるだよ。見る?」


 アイリーはそう言うと服をまくりあげようとする。

 孝明は慌ててアイリーを止めようとする。


「いいからいいから!こんなところで服脱ごうとしないで!」


 アイリーは唐突にとんでもない言動をし出すので気が休まらない孝明であった。


「あんたまさかこの子にやらしいことさせてるんじゃないでしょうね。」


「そんなことしてないって!体はちゃんと作らてないって言ってただろ!」


 茉莉花の質問に焦る孝明。そんなことしようとも考えたこともなかったが、唐突にそういうことを聞かれると免疫があまりない孝明はてんぱってしまう。


「・・・ねえ。なんであんたこの子と暮らそうって思ったの?あんたから言い出したんでしょ?」


「え?えっと・・・それは・・・。」


 正直孝明自身も分かっていなかった。

 博士の実験に協力したいという気持ちもあり、それには第三者の意見もあった方がいいだろうと思い引き受けたというのも確かにあるが、それだけではなかったような気がしていた。

 一体なぜ自分は実験のために彼女と暮らす選択を選んだのか。


「まあいいわ。それより、今度の日曜付き合いなさいよ。待ち合わせ場所と行くところは後でメールするから。じゃああたし帰る。」


「あ・・・ああ。分かった。」


 正直孝明はあまり乗り気ではなかった。

 また当日いきなりキャンセルにされたり途中で帰るなどと言いだしそうな予感がしたからだ。

 バイトには土日に入ってほしいお店が大半であろうが、孝明は茉莉花のために日曜はシフトを入れないようにバイト先の店長に頼んであるのであった。ドタキャンされると分かっているならバイトに行っておきたいと思っていた。

 しかし一時的な誤解とはいえ茉莉花を怒らせていたこともありお詫びの意味も兼ね受け入れることにした。

 茉莉花が立ち去ると孝明はアイリーの方を向き声を掛ける。


「じゃあ僕らも帰ろうか。アイリー。」


「うん。」


 二人で帰宅し孝明はいつものようにアイリーの作った夕飯を食べ入浴し残りの余暇時間を適当に過ごし就寝につく。


 




 
























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