第6話 日常

 翌日の月曜日。今日から藤井孝明ふじいたかあきアイリーとの生活が始まる。

 彼女を学校に連れて行く訳にはいかないので家で留守にしてもらっている。


 彼女に何もしないまま家に居座らせておくのも逆に窮屈さを感じてしまうと思い、家にいる間は掃除をしてもらい、(とは言ってもすぐに終わってしまいそうではあるが)その日帰るおおよその時間を伝え晩御飯の準備をしてもらうようお願いした。


 昨日の料理は目に余るものであったが、教えたらしっかり覚えてくれて簡単なものだが何の問題もなく作れるようになっていた。

 念のため掃除をする様子も昨日見せてもらったが特に問題はなさそうだったのでお願いすることにした。


 今日は夕方からバイトがあるので早く帰るのは無理だが、やはり一人留守にしておくのは心配だしかわいそうなのでできるだけ早く帰るよう心掛けたいと思う孝明であった。






 大学に到着する孝明。

 アイリーのことが気になってしまうが、それで講義の内容を疎かにするのはまずいと思い気持ちを切り替えることにした。

 大学の講義など出席さえすればそれでいいと考えてる学生も多いと思うが、孝明は高い授業料を払っているのだからできるだけ学校から多くのことを学びたいと思っているようだ。


「よっ、孝明。おはよう。」


 そう声をかけてきたのは大学の友達の山崎悠真やまざきゆうまであった。

 彼とは講義で一緒になることが多く、その流れで話す機会も多くいつのまにか仲良くなっていた。


「ああ、悠真。おはよう。」


 二人で同じ講義を今から受ける予定なので、一緒に歩きながらたわいもない会話を続ける。


「次の講義受けたくねえ。あんま好きじゃねえんだよなあ。」

 

 悠真がそう言うと苦笑しながら孝明が返す。


「よく言うよ。お前ずっとスマホ見てるくせにさあ。」


 とは言っても彼だけに限った話ではない。

 講義をちゃんと聞いておらず何かしらよそ事をしている学生というのはけっこういるものだ。


「孝明は真面目だよなあ。むしろあの講義ちゃんと聞いてるのお前くらいじゃないのか?」


「やっぱり親が授業料払ってくれてるしさあ。ちゃんと勉強して大学卒業したいんだよ。」


「俺も出してもらった派だけどさあ。ほんと、奨学金で大学行ってるやつすげーよなあ。社会出たら自分で返してくんだろ。」


 悠真がそう言うと孝明は時間を確認する。


「そろそろ時間だし、急ごう。」


孝明は悠真を急ぐよう催促する。


「へーいへい。じゃあ行きますかね。」








 本日の大学とバイトを終え、家に帰宅する孝明。夜もすっかり更けていた。


「ただいまあ。」


 一人暮らしするようになってから『ただいま』などと言ったのは初めてではないだろうかと思った。

 するとアイリーが出迎えに来る。


「おかえり、孝明。今日ちゃんとご飯作っておいたよ。うまくできてるかどうか心配だから早く感想聞きたい。」


「ありがとう。じゃあさっそくいただこうかなあ。」


 そう孝明は言うとテーブルの前に座る。アイリーが食事を運んできてテーブルの上に置く。出てきたのはオムレツであった。


「あれ?昨日オムレツなんて教えてないよね?どうしたの、これ?」


「その・・・。昨日全然ダメで孝明に悪いことしたから・・・。だから改めて検索し直してネットで掲載されてた通りに作ってみたの、時間もあったし。味見はできてないけど、レシピ通り作ったから大丈夫・・・だと思う。」


 アイリーは相変わらず無表情だったが昨日料理がまともに作れなかったことを申し訳なく思い今日一生懸命作ってくれたことが伝わってきた。

 孝明は嬉しく思いアイリーに言う。


「わざわざ僕のために調べて作ってくれたんだね、ありがとう。じゃあ早速食べさせてもらおうかな。」


 孝明はアイリーの作ったオムレツを口に運ぶ。


「うん、美味しい。美味しいよ!味が分からないのによく上手に作れたね!すごいよ、初めてなのに!」


「う・・・うん。ありがとう・・・。」


 普通に美味しくできてるということもあったが、彼女が一生懸命作ってくれた誠意と誰かが作ってくれた料理を食べられた嬉しさでもあって孝明は感動していた。

 孝明はオムレツを完食し終える。


「ご馳走様、美味しかったよ。」


「孝明、お風呂沸いてるけど入る?」


「え?入れてくれたの?ありがとう。」


 孝明は驚きつつお風呂に入ることにした。

 お風呂の用意のことは伝え忘れていたハズなのだが、彼女はわざわざ準備してくれたのだ。

 すごく気が利いてて助かると思った。


「お風呂の用意してくれたのって、人間が就寝前に入るものって君の中にデータがあったりネット経由で情報を得たりしたからなの?」


 孝明がアイリーに質問すると彼女は少しうつむきながら答える。


「・・・分からない。ただ人間でいうところの、なんとなく・・・って言うのかな?そうした方がいいって思ったの。」


 孝明はどういうことなのだろうと思いつつ、まあいいかと思い入浴することにした。


 孝明はお風呂から出ると布団を敷き始める。


「じゃあ僕はもう寝るよ。明日も早いし。」


「うん、おやすみ孝明。」


 孝明はそう言うとふと疑問に思うことがありアイリーに聞くことにした。


「そういえばアイリーって寝たりするの?やっぱりアンドロイドだからそういうのはしないの?」


 昨日もアイリーと一緒だったが、孝明はそのことに気づかず先に寝てしまったため、昨夜彼女がどうしていたのが知らずにいた。


「寝る・・・のとはちょっと違うけど、スリープモードって言うのかな?エネルギーの消費を抑える状態に入るの。パソコンやゲーム機でもそういうのあるでしょ?」


 孝明はそういえばそういうのがあったなあと納得する。

 もし彼女が夜中も起きているのならその間ずっと実質一人にしておいてしまうことになるため心配していたが、それなら大丈夫だと安堵する。


「なるほど。じゃあアイリーもゆっくり休んでね。おやすみー。」


「うん。おやすみ。」


 二人は就寝し1日を終える。














 





 

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